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最凶の人生~思考盗聴器と共に生き、本当に一度死んだ男~  作者: 時田総司(いぶさん)
6章 束の間の高校編

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3 その日頬を伝って、あの日頬を伝わらなかったもの

 ある日、野球部の先輩の家族に、不幸があった。


 その日、監督の方針で部員が揃って、その家族の葬儀に参加することとなった。

 よくよく考えてみれば、同じ野球部の部員というだけで、それ以外の関係が薄いであろう他人が、家の葬式に来るというのは如何なモノか? 部員は監督の『社会を知る為』という言葉を疑うことなく信じ、式の時間まで部の更衣室で待った。時田と同じ1年の幸村が、時間つぶしに時田のゲームがしてみたいと、申し出た時は甚だ不謹慎だと彼は感じ、断った。


 葬儀の時間になった。

 式場は、粛然とした空気が漂い、時田もその場に合った態度で臨まないとと、気を張り詰めた。そこで時田は余りにも理解しがたい、我が目と耳を疑う様な場面に遭遇する。同じ1年の田尾津地男が、式場の通路でニヤニヤしながら小刻みにはしゃいでいたのだ。



「横チン横チン」



(なっ……!?)


 同級生の横田をからかっている。これには普段から温厚な時田も怨嗟が喉元までせりあがってくる思いになった。


(コイツ……先輩の家族に不幸があった日に……なんてことを……!!)


 この理解不能な言動から、田尾津地男を一生涯、軽蔑し続けられれば良かったのだが、時田は元来、呪いや洗脳を受けやすい体質や魂の性質を持っていた為、今後田尾と交流を持つことになってしまうのだった。


 田尾に向けられた憎悪は読経が行われる寸前まで薄れることはなかった。


「――、――」


 弔辞が述べられている。時田はそっと耳を傾けてたのだが、感情が移ってしまい、気付けば不意に生温かいものが頬を伝っていた。

 周りはどうだろうか? そういう思いから椅子に座りながら時田は見渡してみる。他は、誰も泣いていない様に見えた。が――、


「うぅ……」


 時田の他に、幸村だけが顔をクシャクシャにして涙を流していた。


(! 只の不謹慎なヤツかと思ったけど、無邪気なだけだったのかも知れない……)


 そのまま時田は帰りの車でも涙が途切れることはなく、膝を濡らしていた。



 ――、


 寮に帰った時、先輩からその日のことについて話し掛けられた。


「何で泣いとったの?」

「あっ……えーと……」

「悲しかった?」

「……たぶん、そうです」



 ――、


 時田は2年前の、家族の葬式を思い出してた。

(ひいばあちゃんが亡くなった時は泣いてなかったのに、どうしてだろう……?)



(回想)


 小学生の時田、コタツで携帯ゲーム機のボタンを連打している。曾祖母のマサヨがちゃんちゃんこを両手で広げ、彼に近付いてきた。


「総司や、そんなに夢中になって……寒かろう? これを……あっ!」


 マサヨは80代後半だった。足をもつらせてしまい、顔から時田に突っ込み……。


「あっ!」



「chu!」



 勢い余ったマサヨは時田の頬に口付けをした。


(回想終了)



(……)


 時田は顔から表情が消えた。記憶は再び巻き戻り――、



(回想)


「姉弟仲良くしなさいよ~♪」


 フサヨが歌いながら家族とは何ぞやと、幼い時田に教育を施している。


「うるせー! しねー!!」


 幼さとは罪なもので――、時田は理解できない重さを、無邪気に振り回していた。



「家族に向かって死ねとは何事ですか!!!?」



 マサヨは酷い剣幕になって怒鳴った後、その場から立ち去った。当時の時田は五月蝿いのが消えたとばかりに漫画を開いていたのだが……。

 マサヨが、愛用している杖を右手に持って再び現れた!


「!」


「……!!」


 マサヨは、無言で杖を振り下ろし、時田の脳天を襲った。

 ここで重要なのが、杖の先で殴ったのではなく、取っ手の重たい部分を器用にスナップを利かせてコーンと、やったのだ。これがマサヨなりの優しさで、地面を突いて雑菌だらけの場所じゃなく、普段握っている菌の少ない方で感染症予防に徹した曾祖母の計らいだったというコトに、時田はいつか気付くだろうか……?


(回想終了)



 時田は、目頭を親指と人差し指で押さえた。


(……今回泣いたのは、弱くなったから。……って訳じゃ無さそうだ……)

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