2 ド底辺無能ズボラスーパー最悪新人、時田
時田は入部早々、深刻な問題に直面していた。
(先輩の名前が……覚えられない……)
先述した通り、時田は記憶力が良い方ではない。何度も何度も書いたり読んだりして、やっと覚えられると、いった感じだ。そして、中学まで田んぼと山しかない様な田舎で育ったため、今まで同級生ですら20人くらいしか居なかったのだ。それが急に部員80人の大所帯に放り込まれたのだ(自ら志願して入部したのだが)。部員全員の名前と顔が一致せず悪戦苦闘していた。
ユニフォームに書いてあるからそれを読めば?
そういった考えの方もいるだろうが、仲の良い部員同士、ユニフォームを交換して着ていることがあったため容易にユニフォームだけでは判断できなかった。そんな中――、
「おい、時田。先輩の名前覚えとらんらしいの?」
当然、シめられた。
「この人の名前は?」
「鈴木さん……です」
「違うわこっちが鈴木さんじゃ。じゃあ、この人は?」
「……分かりません」
「お前、どうせ俺のコト鈴木さん鈴木さん言うんじゃろうが!!」
「……すいません」
その夜学生寮にて――、
「おい、時田」
2年の先輩が時田の部屋にやって来た。
「お前が先輩の名前覚えん所為で2年の俺らまでとばっちり受けるんぞ? どういうつもりなぁ?」
「……すいません」
「名前覚えられんとか、失礼じゃろうが。どうにかしろ」
「はい、すいません……」
数分間、時田がしぼられてから先輩達は帰って行った。
「お前、名前くらい覚えろや」
「!」
同級生で同室の脇井が、見かねて時田に話し掛けてきた。
「お前が、この部屋で怒られでもしたら俺まで嫌な気分になるんじゃ。そういうコトで怒られん様にしろや」
「ごめん」
「ちょっと協力してやるわ。書け。書いて覚えろ」
「……うん」
――、
「宮地さん……涌井さん……あとは」
「あと4人! 何とか思い出せ!」
毎日先輩たちの名前を書くトレーニングが続き、暫くして時田はそれら名前を全て覚えるコトに成功した。
一難去ってまた一難。時田に次なる問題が、浮上する。
「おはようございます!!」
「おい、また時田が……」
「ああ」
時田は朝練に遅刻してしまったのだ。しかも、何度も――。
「お前何度目な? 何でそんなに遅刻するんな?」
「……分かりません」
「は? 自分の事が分からんのか!?」
先輩に締められていた時田だったが、本当に遅刻の理由が分からなかったのだ。
朝、5時頃起き、洗濯物を回し、食堂に行き――、気付けば時間が過ぎていた。
「あっ」
そう思った頃には、時すでに遅し。そんな朝を何度も繰り返していた。
「お前、寮生なのに何で遅刻するんじゃ? 俺ら朝早くから電車乗って通っとるんぞ?」
タメの自宅生にとっても浮いた存在になり、文句を言われた。
時田は数日後、興味深い発言を耳にすることとなる。
「時田、お前何で寮の食堂で箸持って固まっとんな? 俺らが朝練に来て通りかかった時、座って固まっとったぞ。何がしたいんじゃ?」
「え?」
時田は、朝、5時頃起き、洗濯物を回し、食堂に行き――、固まっていたらしい。考え事をしていた訳でも無い――。どうして――?
それは呪いかも知れない。フサヨの仕業か、シゲミの仕業か? それとも――?
その発言を耳にし、幾ばくも経たぬ頃、井上さんが時田に金言を残す。
「時田、お前絶対に食堂へ行くな」
「? はい、分かりました」
時田は、当時の野球部が朝食を食べずに朝練をしているという事実を知った。それなら、食堂へ行く必要もないのではと思い、部員と同じく、次の日から朝食を食べずに朝練に行くコトとした。次の日、時田は集合時間の前にグラウンドに居た。
(おお。これなら大丈夫か。……! 千原さんが、もう居る!)
食堂になにかしら時田用のトラップが仕掛けられていたのか、井上さんはそれを読み取っていた? それはそうと集合時間にだけは間に合っていた時田。しかしこれでは足りないのが下級生というもの。3日後にタメの岡田に胸倉を掴まれて、一喝された。
「お前、集合時間に間に合ったくらいで良いと思うなよ。千原さんを見て見ろ。あの人はそれよりも早く来とってじゃろ? 俺ら1年は他のどの先輩らよりも早く来てないといけんのじゃ!」
「悪い……」
次の日、時田は集合時間の40分前にグラウンドに現れた。
(人が……ほぼ居ない……)
澄んだ空気が、新鮮だった。




