17 汗にまみれた稽古の後でも、机に向かえば思考は冴えわたり、彼女の一日は常に心身の研鑽で満ちていた……?
17 汗にまみれた稽古の後でも、机に向かえば思考は冴えわたり、彼女の一日は常に心身の研鑽で満ちていた……?
時田総司は、沖田総司の生まれ変わりである。
同時に、ヒトラー、明治天皇、宮本武蔵、則天武后にダルマにされた人、NASAの乗組員……等々、『やきう』という名の魂単位でみると、宇宙が始まって以来、最多の転生回数を誇る。
宮本武蔵と、沖田総司の生まれ変わりなら、当然、剣の腕前は達者なのでは――? そういった見方の読者の方も多いはずだ。当然――、とは言わず、時田の剣道の実力は……
「やぁ――!!」
「面!!」
「パッシィ――!!」
「……あ!」
弱かった。
何故――? それは幼少期よりおこなわれてきた、父からの呪いによるものだった。
『お父さんは、総司を愛しているよ……』
『しかしお前は、幸せになってはいけない』
シゲミからの歪んだ愛情。
時田の両足に、見えない手が伸び、地獄へと引きずり込もうとする。足枷は重く、幸せへの扉は鉄の鎖で硬く閉ざされていた。
父・シゲミの陰のオーラは、本来スポーツをするうえで大切な陽の感情を抑圧し、封じ込めていた。結果、大事なところでどこか引っ込み思案になってしまうプレイスタイルの人間に、育て上げられてしまった。
剣道において、打突の正確性を高め、ブレを防いで強い打突を生み出し、さらに崩れにくい体勢を保つために各技を放つ瞬間に竹刀を握った手を内側に絞る。こうすることで、有効打突を放った時に乾いた良い“音”を出して打突ができる。時田の通っていた道場では、この“絞る”行為を、『地面に叩きつけるくらいの勢いで打つと、相手が痛い』という理由からおこなうものと、教えられた。やや優しい理由で語られていたのだ。
ここから、『相手が痛くない様にしよう』そう考えた時田は、打突が遅く、貧弱なモノしか打てない剣士となってしまっていた。
――、
実技前に身体を動かす練習があった。そこで、女剣士が1人、『この打ち方だ! この様に打突するよう!』と言われる程手本になっていた。
1回目の実技試験が終わった。
(めっちゃ打ち込まれた……落ちたなこりゃ)
時田は落胆こそしていなかったが、気も緩めることもなかった。
(おや……? あの子……)
実技試験でボロボロだった時田の姿は、審査員の目に留まるコトとなる。
スッと伸びた背筋、しなやかで力強い脚運び、作法にかなった見事な礼。試験の前後でおこなわれる蹲踞をはじめとする礼法、その時田の佇まいに会場の人間は舌を巻いた。
――、
実技試験のすべてが終わった。
(次は、形か……)
剣道形の試験――、
その時々によって割り振られる形の種類と太刀の役を伝えられた時田は、準備してきたことを忘れることなくこなし、その試験を終えた。
「実技と形が合格した者のみ、筆記試験に移ります」
審査員スタッフが、剣士達を集めてアナウンスした。
(実技の出来があれじゃあ、落ちたな。この後帰るのか……)
時田は呪いの所為もあって、ネガティヴである。期待など1欠片も持たず、合否結果の紙を数10分後、確認しに行った。
「合格者……『時田総司』……! アレ?」
時田は礼節と佇まいからくる風格だけで、筆記試験まで食らいついた。
「あっ」
当然、見本になった女剣士も合格していた。
(そりゃそーだ。さて、少し教本見返しとくか)
当時の筆記試験は、基本の構えを答えたり、心技体とは? を説明するなど、ややマニュアル通りの答えを求めてくると、いうのが初段の内容になっていた。
(中段の構え……上段の構え……下段の構え……)
少し頭を捻る問題もあったが、難なく答える時田だった。
――、
(ここまで来たからには、流石に合格したいな……)
時田に僅かな執着が湧いてきた頃――、
「合格者を発表する!」
審査員スタッフが合否結果の紙を張り出した。
「……『時田総司』よし!……アレ!? まさか……」
時田は我が目を疑った。
(無い……確か名前は……〇〇だから、あいうえお順で……)
そう、まさかだった。
「ぶっ!」
実技で手本になっていた女剣士の名前が無かった。
(女剣士、オツムの方が……文武両道とは、いかなかったか……)
時田は、薄汚い笑みを浮かべていた。




