15 定期試験の苦しみからも解き放たれた俺は! 自由だ!!!!
その夜もうなされていた。頭に直接、声が聞こえることもあった。
『死ねっ! お前は生きてはいけないんだ。お前が死んだら俺が幸せになる!!』
『人思いに死んでくれぇ!』
『お前、こっち来い』
『お前ら、どうかしとるわ』
(何だ……罵声だらけの幻聴かと思えば、喧嘩……? してる……)
時田は“その声”について違和感を覚えた。普通、幻聴というのは批判・否定する声が多い。それに次いで、自分の行動を実況される、自分の考えが声になる、それについて意見される、物音が聞こえる等がある。しかし時田の幻聴(?)は幻聴同士で会話したり、幻聴同士で喧嘩している様に聞こえた。
何か、一般的でない……。
そんな考えが脳裏を過ったのだが、相変わらず苦しさは紛れず、只々暗い夜を感じていた。
(僕が何をしたというんだ……。前世で何か、悪いコトでも……?)
そんな考えまで巡らせながら、僕は重く息を吐いた。そんな時――、
『あなたの前世は、ヒトラーだよ』
歌う様にしゃべるソプラノボイスで一言、聞こえた。
時田はふふっと笑い、息を大きく吐いてから思うのだった。
(前世がヒトラーだったのか……。じゃあ、仕方ないか――)
スッと眠りに就いている時田が居た。
――、
「朝が来た……」
状況は変わらず、只家に居るだけで、楽しみもない。
時田は虚ろな目で、遠くを見つめているだけだった。時間が重く、長く感じる。
父・シゲミに、何か話そう。そういう藁にも縋る想いで、シゲミの帰りを待った。自分を呪った父を何の疑いもなく信じ続けていた。
夕方――、シゲミが仕事から帰ってきた。
時田は庭に出て、『学校へ行きたくない』『教室が怖い』『夜眠れない』『何も楽しくない』とシゲミに話した。
シゲミは、流石に気を落としてフーと大きく息も落とした。そして、何を思ったか、真剣なまなざしで時田を見つめて、言った。
「総司……人を傷つけるな、人のものを盗るな、人を傷つけるウソを吐くな。それ以外なら何をしてもいい」
曇っていた視界が、少しだけ晴れた気がした。
「うん!!」
時田は、大きな声で答えた。
次の日、1ヶ月ぶりに時田は中学校へ登校した。
(U君だけは味方だ……多分)
教室へ着き、U君に挨拶する。
「おはよう!」
「おはよう。頼んだよ、大会の事」
良かった、必要とされている。一瞬だったが、安心のひと時を過ごせる気がした。
(気に入らないわね)
ナルのその視線を浴びた途端、その安心は崩れ去っていくのだった。
それから、二学期の中間試験を終え、緊張の糸も途切れた時田は監視に耐え切れず、再び不安に押しつぶされて、学校へ行くのを止めた。
その日の晩だっただろうか。それとも、その日からいくらか日が経ってからだっただろうか。時田は真っ赤な光を目にする事となる。
夜――、いつもと同じ様に、寝つきが悪く、うなされて苦しんでいる正にその時、目を瞑っていると目蓋の裏に、真っ赤な光が浮かんできた。その光はとても大きく、全ての大きさを捉えることは到底できないくらいの大きさのものだった。そして、何故だか温かみがあった。
(あったかい……神様? 太陽? そうか……太陽の中に神様が居るから、人は神様が見えないんだ……)
時田はそんなことを考えながら、数週間ぶりに深い眠りに就いた。
この時、離婚した母、太陽神・キヨコが時田に祈りを捧げ守っていたのだった。
――、
「昨日はよく眠れたから、今日から学校へ行くよ」
時田は家族にそう宣言して、学校へと足を運んだ。教室へ辿り着き、カバンを整理してトイレに行くと、案の定“何か”を使われた。
(平常心、平常心……)
心は取り乱さなかった。
再登校してすぐ、担任から一言添えられ、中間試験の結果を返された。
「笑っちまうような点取ってたぞ?」
英語、40点。
(1年1学期、平均96点取った僕が……正に転落人生だな)
笑ってしまった。それはそれは乾いた、冷たい表情で――。




