8 ぼくが人間の村へ出かけて大暴れをするから、そこへ君が現れて僕を思いきり懲らしめてくれ。そうすれば、人間たちは君が自分たちの味方で、優しい鬼だということがわかるだろう
時田は実家の離れから聞こえる声で現状を把握した。そして、酷く憤慨した。
(とんでもないコトをしてくれたな!!)
「え? 何? 怒ってる? てか耳良すぎじゃね?」
「キモチワルイ」
女子達の声も聞こえて来た。
「……!」
時田は不意に、尿意を催した。
(ト……トイレ行かないと)
「トイレだってー」
「サイテー」
この状況が続くなら、いつか行かないといけない。渋って我慢しててもしょうがない。そう思い時田は実家のトイレに行った。そして用を足している時も、誰かに見られているようで恥ずかしかった。
(ふー。さて、どうする? “何か”を使われているのは明らかだ。そうじゃなければ僕は精神疾患を患っているか何かだろう。声のする方へ行ってみるか? いいや、離れは父さんが住んでいて大体鍵がかかっている。それに、流石に……、そんな勇気は、無い……)
時田は恐怖で震えていた。
(自分の頭で考えた事が読み取られる“何か”その何かを使われている。そんなモノが本当に存在しているのだろうか……。何かの錯覚では? いいや、声は確かに聞こえてくるし、あの時――、)
(回想)
「どうなっているのかしら、時田君の頭の中」
「それ、絶対使うべきよ! 早く準備して!」
(回想終了)
(あの保護者たちの声も、確かに耳で聞き取った。僕の憶測は正しい)
何かがある――。そう時田は考えていた。
17時を優に過ぎた頃、時田は眠っていた部屋から出た。
廊下を進むと台所に、姉・かの子が居た。
「今日誰か……家に来た?」
「いや、来てないよ」
かの子は、時田の持論が真っ向から否定されるような発言をしてきた。
「そう、分かった」
時田は再び、寝ていた部屋に戻り、考える。
(姉は誰かが来たコトに気付いていない……? それとも全てが僕の勘違いか……精神疾患の……症状?)
と――、
「ごめーん、バレたかも知れない」
(!)
姉の声だった。
「いーや、ダイジョブっすよ」
「そうそう」
春俊やナル、それに岸田君の声すらした。
(姉と僕は、仲が良いとは、お世辞にも言えない仲だ。しかし――、
姉さえも僕の敵なのか……)
時田を絶望が襲った。
一夜明けて――、
朝、時田は顔を洗って朝ご飯を食べる。段々と意識がはっきりとしていくうちに、一つの疑問が浮かび上がる。
(あの“何か”はどうなったのか?)
ご飯を食べた後、時田は離れに近付いてみる。すると――、
「やだ、こっち向いてるよ」
「キモーい」
クラスの女子の声が聞こえてきた。
(っ……!)
時田は、精神的苦痛で顔が歪んだ。
(中学2年の多感な時期に、よりによって異性に、自分の心の中に土足で上がられたようで、しんどい。本当に――、しんどい。それにしても、どういうつもりなのか? 僕の心の中を垣間見ても何の得もないだろうに。暇な連中だ。そして、教育がなってない。本当に節度の無いヤツらだ。このままやられっぱなしなのか……?)
時田は目をキッとさせて目前を睨んだ。
(嫌だ。復讐してやる。
僕の心が読めるのなら、その心が作っている言葉で、攻撃してやる)
クラスには中心人物が何人か居る。その中心人物から、立ち直れないくらいに攻撃して、敵対しているクラスメイト全員に、復讐してやるんだと、時田は気構えた。
(ユマ、かナルだ。クラスの中心に居て、いつも他人の愚痴ばかり言ってふんぞり返っている。攻撃性を見るとナルだ。しかし、容姿を重視するなら、ユマ。…………ユマからにしよう)
時田は復讐の為、攻撃対象を決めた。
(ユマ死ね)
心の底から罵声を上げられるだけ上げようとする。
(ユマはドMだから刃物で刺されて死ね)
「ちょっと!」
「何これ?」
「やだ、怖―い」
女子達の声が遠くから聞こえていた。その為、時田は“復讐”が上手くいっていることを確認し、したり顔になっていた。
(しめしめ、これでもっと嫌な思いをして、僕に関わらないようになれ、監視を止めろ。再起不能になれ!)
「僕がちょっと、言いに行ってやろうか?」
(! ! !! !?)
岸田君の声がした。先述した通り、時田は岸田君とは小学校6年からの間柄で、よく家に遊びに行ってゲームをする仲だった。
「止めときなよー」
「居るのバレるよ?」
「でも、我慢できん」
周りの女子に、こちらに来るのを止められている岸田君。
(…………)
時田は不意に、今度は岸田君に罵声を浴びせる。
(岸田君のKは鬼畜君のK)
「ほら! あんな奴だよ!?」
「でもさ、行ったって何も変わらんよ?」
向かってきそうな岸田君を、再び止める女子達。
岸田君までをも敵に回してしまった時田。何故不意に、罵声を浴びせたのか?
岸田君が女子の味方をしようとしたから?
否、そんなモノで壊れるような、時田の友情ではない。
なら何故?
こちら側に来させない為。
味方になってもらうのはこちらにとって好都合だが、クラスの大半を敵に回している状況で安易に味方になってもらっていいのか? そうすると辛い思いをさせてしまう……。多分これが、昔絵本で読んだ、『泣いた赤鬼』に出てくる青鬼の気分なんだろう。自分と敵対させる事によって、クラスの大半の人間と味方になってもらう。そうすれば岸田君は傷付く事は無いから――。
(き、岸田君のKはキチガイのK)
時田は更に罵声を思い浮かべ、浴びせる。
「もう知らん、あんな奴!!」
どうやら泣いた赤鬼作戦()は成功した様だ。時田が大事な友達を失う事で――。
「これからもずっと監視してやろうや!」
! ! ! !!
クラスメイトの女子の提案。どうやら時田の地獄はこれからも続いていくらしい。




