2 『努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのならば、それはまだ努力と呼べない』なんて迷いなく言ってみたかったなぁ
地獄の様な、利き手と逆の手で勉強する罰ゲームの様な日々は、およそ一週間くらい続き……
「あぁぁああ!! もう!!」
時田のストレスは限界を迎えていた。だがそれとほぼ同時に、定期試験の二日前くらいに、包帯を取る瞬間が訪れた。
「痛みますか?」
外科医の言葉を聞いた時田は右手をグー、パーと、握ったり開いたりしてみる。ジワリと、少しだけ間接の軋みと、神経が刻まれた様な痛みがしたが――、
「大丈夫です……」
珍しくウソをついた。心の根底には “もう、左手で勉強したくない”その切なる思いが沸々と込み上げていたからである。
「お大事にー」
病院を後にする時田だったが、右手をふと覗いてみる。突き指した中指には白いスジの様なモノが浮かび上がっていた。これ……大丈夫なのかと、時田は外科医を心から疑った。
さて、試験当日!
痛む指、それでも堪えながら時田はシャーペンを握った。
「始め!」
――、
「そこまで!」
小学校時代には無い、緊張感がそこにはあった。だが、不思議とそこには高揚感があった。教室の時計の針が動くのを見ながら、ペンを進める。分からないと、ペンを止めた数秒後、不意に答えが浮かび上がってくる。一週間の努力は無駄ではないと、時田は自信満々に試験を受けていた。
『努力』――、
時田がジャン〇の漫画で好きなキャラはロッ〇・リーとキ〇だった。〇バは知らないが、ロッ〇・リーは努力の人。
『才能なんて、努力で覆してやる』
中学に上がる頃からそう思い続けていた時田は、野球は……だったが、勉強だけはがむしゃらに努力、努力でやりきる気だった。だから、好きだったゲームは試験期間中、一切しなかったし、テレビもニュース以外見ない様にしていた。さて、試験結果が返ってきた。
国語100点、
数学100点、
英語100点、
理科9×点、
社会9×点!
平均、96点!!
「っしゃああ!!」
心の底からの雄たけびとガッツポーズが自然に出た。
それはクラストップの成績で、時田は辺りに囃し立てられた。
「おお!」
「やるな!」
ナルはさぞ、快く思わなかっただろう。
「スゲー、天才じゃーん」
「!? ――」
ピクリと、その言葉は時田の耳に触れた。
「天―……、才……?」
その言葉は時田にしっくりとこなかった。
数日後――、
小学校から続けている習い事の剣道、毎週月曜日の夜に道場に通っている時田だったが、習い事の終わりに一年上の先輩ユイさんに話し掛けられた。
「定期試験、どうだった? 難しかったでしょ」
「平均、96点でした」
「うっわすご! 天才じゃん。頑張ったね」
「あのっ! でも……」
「?」
「どれだけやっても不安だったから、土日に平均8時間くらい勉強してました」
「すごーい。じゃあ、
努力家なんだねー」
「! ――」
『努力家』――?
時田はうれしくてうれしくて、もじもじとしながら軽く、挨拶した。
「ありがとう……ございます……」
その日、床に就くときに時田は物思いに更けていた。
『努力家なんだねー』
努力――、
一生懸命勉強して、それが結果に繋がった時、心の底から嬉しかった。これは素晴らしいことだ。クラスの皆と“コレ”を共有したかった。
「そうだ!」
何でそんなに勉強できるの? と聞かれたら、皆も頑張って勉強すれば努力は報われるよと、言える人間になろう。そう心に決めながら時田は静かに、眠りについた。




