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最凶の人生  作者: 時田総司(いぶさん)
5章 絶望の中学編

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1 『素人相手に、この俺が本気を出す必要などあるまい……』そう言った男は右手を上着のポケットに入れた

 校門の脇で咲く桜が、まだ慣れない制服の肩に、ひらりと花びらを落とした。

 時田は中学生になっていた。入学早々、時田は部活動の選択欄に野球部と、書くコトになった。


 理由は、地元の中学が、卓球部か野球部しかなかったからである。そして、卓球は得意ではなかったという言い訳と、野球を始めたら有名人の様に成れるかもと、いうゆとり世代特有の根拠のない自信があったからである。


 早速、体験入部をしに、グラウンドへ向かった。


 しかし――、


 他の1年生で、少年野球をしていたカツヒコはおろか、U君すらグラウンドには居なかった。何故か――? 春に大会があり、邪魔してはいけないと、他の1年生達は遠慮していたからである。後でそれを知った時田は、空気が読めない後輩が入って来たと思われたんじゃないかと、恥ずかしい思いをするコトとなった。しかし野球部の先輩方は、時田を温かく迎え入れてくれた。何故か、バッティング練習に参加させてもらえたのだ。マンガの知識しか野球を語れない時田は右打席に立った。


 初球を――、


「キン!」


 レフトへ――。


 油断しきっていたレフトは頭を越されていった。おおおおおと、時田は拍手を浴びた。


(頑張れば、プロとかになれるのかも……)


 一度の成功が、彼に「できる」という錯覚を与え、時田の中の根拠のない自信は膨れ上がった。


 しかしその後――、キャッチボール、ノックを受けているうちに、


(アレ……?)


 体が上手く動かないコトに気付く。そして――、




「ゴシャァァアア」




 時田は鼻に打球(軟球)を食らった。鼻血がだらだらと流れ出した。


(僕、野球向いてないかも……)


 時田は人生初の野球を、開始30分で諦めた。腕力には自信があった。小学校三年生から剣道を始めた時田は、片手で素振りを何度も繰り返し、力こぶが膨らんでいた。我慢強さも自信があった。剣道で脱水症状になるまで稽古を続け、小手を打たれ続けて剥離骨折しても、ずる休みなど1回くらいしかしなかった。


 しかし――、縦横無尽に跳ねる球を、捕球し切れない。暴投をしてしまう。おまけに、鼻に打球を――。



 実家で夜中に目が開くサルの人形――、


 それを見ても決してビビらない精神だけは立派で、打球にビビらずにキッチリと鼻で受け止めた。


(内野は絶対無理!!)


 自身の運動神経の悪さに、ほとほとウンザリするのだった。




 さて、中学生になったというコトは、テストが小学生の時よりも難しくなってしまうと、いう宿命がある。定期試験が1学期に二回、2学期に二回、3学期に一回あるというのは、皆さん周知の事実だろう。


 時田は、5月の1学期中間試験の試験期間前に、短い休憩時間、バスケットをして遊んでいた。桜木花〇の真似をして、隅っこでドリブルの基礎練習をしていたのだった。


 そこへ、ナルの弟が、スティールを仕掛けてきた。時田は、ボールを取られたと思い、右手がこわばった。視線をナルの弟に向けて奪い返そうとした。しかし、オレンジの球体は時田の右手の下にあり――、


「ガッ!!」


 跳ね返ったバスケットボール。時田は靭帯損傷クラスの突き指をした。病院に行き、社長出勤の外科医に診てもらうと、


「切開しないと、このレントゲン写真じゃあ分からないですねぇ」


 曖昧に外科医は無責任なコトを言ってきた。その頃の医療技術では、仕方なかったのだろうか? 時田の父・シゲミは、流石に切らせられないですと、切開を拒んだ。そして、時田の利き手は包帯をグルグル巻いた状態で、試験期間を迎えた。試験期間、時田は左腕で勉強を開始した。


 1時間半、勉強して15分休憩、また1時間半、勉強して15分休憩を入れるの繰り返しだった。好きだったゲームは試験期間中、一切しなかった。テレビもニュース以外見ない様にしていた。漫画だけ、読んでいいコトにしたのは、甘えだろうか? さて、勉強1時間半といっても、正確には机に向かっていると、いう状態だった。問題集を解き、時間が1時間半流れなければ苦行の様に机に向かって意味不明な時間を過ごしていた。休憩した方が、良いのでは? 更にストレスになったのは、やはり左腕での勉強だ。慣れない手ではひらがなを書くのも精一杯だった。机に向かっている間は、犬が吠える、居間のテレビの声等が気になり、些細な音を大きく感じ過ぎてしまっていた。



『勉強で一番の敵はストレス』



 そう夜〇月も作中言っていたくらいだが、このようなストレスフルな状態で、はたして人生初の定期試験は首尾よく終わるのだろうか?

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