5 彼は首を絞める――、これといって特に意味はないが酔っぱらって息子の首を絞める。そう、物理的に――
フサヨとシゲミの交渉の結果と、ヒデシの加護もあってか、生後0歳から慢性的におこなわれていた虐待も、過去のモノとなっていた、小学校4年生のある朝――、時田は布団でぐっすりと眠っていた。そこへ、シゲミがモーニングコールを――、
「……!!……!!……!!」
「!? !? !?」
――しに来たのではなく、彼の首を両の手で締め始めた。
(!? 父さん……? 何を……苦しい……! ああ、じゃれているだけ……か……、――)
時田は気を失った。
首を絞められて気絶することは非常に危険な行為であり、命に関わる重大な結果を招く可能性がある。一時的に意識を失ったとしても、脳への深刻なダメージや後遺症のリスクさえあるのだ。
そんな事実を、知ってか知らぬか当の被害者の時田は、何故こんなにも悠長だったのか――? その答えは、先述した、父・シゲミからおこなわれた、息子・時田総司へのある行為に起因される。
『お父さんは総司を愛しているよ』
そう、父からの呪いである。息子の脳内にある記憶の改竄。それによる造り物の愛情、偽物の愛が、父との想い出の中に造り上げられていた。それが有ったが為、そしてまだ齢10歳前後という未熟な判断が故、じゃれているだけと錯覚してしまったのだ。
気を失った我が子を目にして、満足した故か父は寝床から去っていった。そのまま朝食を摂る様だ。朝が来ると、いずれ夜が来てその後また朝が来ると、いうかの如く当たり前の様に平然としている。このことからシゲミの平静の裏に潜む狂気、異常性が見て取れる。
「総司はまだ、起きておらんのかのぅ……?」
何も知らない祖父ヒデシが、様子を見に時田の寝床に行き、寝ているのを起こす。これにより彼は命を落とすと、いう悲劇的な終わりを迎えるコトはなかった。
さて、息子の首を絞める行為だが、この日では終わらなかった。小学校時代にこれを含め3回、中学に上がっても1回、シゲミは気を失うまで時田の首を絞めている。
この時、何故首を絞めたのか――? 答えは、拍子抜けする様なモノだった。
飲酒による泥酔――。
シゲミは酒に弱い。一杯ビールを口にすると、途端に朱に染まった顔立ちとなり、しゃっくりを繰り返す。それでも、吞み続ける。それが身を滅ぼすと分かっていても、彼は呪われたように杯を手放せなかった。事実、彼は不整脈が見つかっていたし、何時頃からか軽い糖尿の診断も受けていた。『依存性がある』という嗜好品の、怖さ――。それは恐怖を恐怖と感じさせないところにあるのかも知れない。
話は少し遡るが、小学校1年生の初夏――、時田の髪が伸びてきた頃、シゲミが散髪をしてやろうと持ち掛けてきた。時田は少々、もじもじとしながら遠慮がちにシゲミに言った。
「髪……、伸ばしてみたいなぁー」
「……分かった」
シゲミは手に持っていたバリカンのアタッチメントを外した。
一体何を――?
次の瞬間、5厘刈りで時田の前髪を剃り落としたのだ。何か……様子が……? と時田は始め、少しだけ不審に思ったのだが、父への信頼の所為か、それ以上は彼を疑わなかった。しかし、どんどん髪が切り落とされるのを目で追ううちに、理解してしまった。
また……坊主だ……。
手で無くなった前髪を確認し、その頭部を鏡で目の当たりにした。
「あぁ……」
フルフルと震えながらシゲミの方を見つめる。すると父は、何か宝くじが3,000円当たったかの様にはしゃぎながら言うのであった。
「あっ。間違えた!」
ぎゃっはっはと声を上げながら家に戻る父と、その場で涙を浮かべながら声を上げる息子。この様に、小さな事から大事になるものまで、父は息子を虐げ続けた。
何故か――?
それは時田が生まれる前から決まっていた。
戦争好きな宇宙創造神・フサヨが、生まれてくる時田に対して8人の敵対勢力を用意していたのだ。それでいて、彼の魂の呼び名、『やきう』には常に2人敵を存在させ続けるという縛りを設けていた。8人なのか2人なのか、フサヨの出鱈目でテキトーさが如何にも現れている。
さて、その敵対勢力の4番手にシゲミが居たのだ。シゲミの魂は、本能的に時田の魂『やきう』を攻撃する様に定められていたのだ。




