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最凶の人生  作者: 時田総司(いぶさん)
4章 小学校の真実

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4 『ハラの傷より…やられっぱなしで傷ついたおれの名の方が重傷だ』なんてゾロみたいなセリフを言える様な剣士じゃなかった


「強い人間になりなさい」


 父シゲミの方針で、小学校3年生から時田は地元の道場で剣道を習い始めた。

 夜7時から9時――、その普段は家で落ち着き、床に就こうという時間に剣道を……? 時田は少々不安を覚えていた。


(あの棒で人を叩くのか……?)


 物心がついてから他人と喧嘩したコトは無い(踵を撃ち抜いたことはあるのだが……)。そんな時田が、自らの腕力で竹刀を振るい、有効箇所へと打突を繰り出す――、()()()()()()()というのだ。果たして自分に、そんなことができるのか――? 彼は新しい挑戦への期待よりかは、明らかにまだ見ぬ未知への不安が次々と湧いている様子だった。


「よろしくお願いします」


 かくして、時田が剣の道を歩み始めた。


「時田君、キミは覚えが早いね」


 初めのうちこそ、難なく道場の稽古をこなしていった時田だったが、本格的に防具を付け始める頃から、大きな壁が立ち塞がり始めた。それは打ち込み稽古の時だった。


「小手ぇ!!」



(!? 痛ってぇ!!)



 幼少期、入退院を繰り返しており身体が思う様に成長していない時田は、手首や前腕部がか細く、『小手』を打たれる時、激痛が走っていたのだ。


「小手ぇ!!」

(!!)


「小手ぇ!!」

(!!)


「小手ぇ!!」

(!!)


 しかもこれが、何回も打たせる稽古であり、打ち込まれることが決まっている為、防ぎようがない。 何度も何度も、打たれる毎に腕の芯に響く痛みは重く積み重なっていく。その度に時田は身を強張らせた。事実、時田の前腕は剥離骨折していた。骨折した上から更に打突を受け続けていたのだ。


「父さん、小手が痛い」


「そういうもんじゃ。我慢せい」


 息子からの悲痛な叫びも、鈍感力を絵に描いた様な父・シゲミには届かず――、時田は自然治癒するまで骨折の痛みと戦っていた。それもあったせいか、毎週月曜日の剣道の時間が嫌で嫌で、新たなブルーマンデー症候群を発症するコトとなっていた。


 そんな剣道人生が1年間続いたある日――、同道場の剣道三段に上がれない大人は悩んでいた。


(どうして二段のままなんだろう……そうだ、自分だけの技を会得しないと!)


 当時、珍しかった『逆胴』これを三段に上がれない大人は会得しようと目論んだ。そして実践稽古で時田と組んで稽古する時――、事件は起こった。


 道場一面に2人1組の剣士達が並び、剣を交える――。礼に始まり、礼に終わる競技。まず、会釈をし、帯刀。そこから前へ進み蹲踞そんきょ、そこから更に立ち上がって発声と共に2人の間合いの攻め合いの幕が上がる。


 三段に上がれない大人の正面に、時田が竹刀を構えていた。時田が声と共に気をぶつけ、竹刀を振り上げる――、


「やぁ!! 面……!!」



「胴ぉ――!!!!」



 瞬間――、三段に上がれない大人の逆胴が時田を襲った……!


「!!!!」


 時田の防具、胴の無い箇所の道着の上を――。


 剣道は、剣道着を着てその上から面、小手、胴、垂れ等の防具を装着しておこなうスポーツである。女性の場合は、下着を着るのだが、男性の場合は上半身は裸の上から道着を着ている――。時田は、このほぼ素肌の上から大人の打突を、小学生にしてまともに喰らってしまったのだ。


「あっ……かっ……かはっ……」


 激痛が、左脇腹を走る――、

 そして、三段に上がれない大人も、時田の許へと走る――。


「大丈夫か!?」

「あっ……かっ……かはっ……」


 呼吸が、できない。当然、声も出せない。少しでも動こうものなら、左半身の広範囲に及ぶ今の雷に打たれたような貫く痛みが、さらに増しそうだった。


「……大丈夫だな? よし、続きだ!」



「あっ……かっ……かはっ……!?(ちょっと待て! 声が出せなかっただけなんだぞ――!? 決して大丈夫だから声出してない訳じゃ……)」



 三段に上がれない大人の判断ミスで、実践稽古は続けられた。


 その日の夜――、

 風呂で時田は怪我の重大さを思い知らされた。三段に上がれない大人に打たれた箇所が、広範囲にわたり真紫色になっていたのである。

 ヒデシは一緒に風呂に入っていたので、目をつぶりたくなる様な惨状に絶句した。


「剣道はもう、辞めるかのぅ……?」

「うん……」


 時田は次の週、剣道を習い始めて人生初のズル休みをおこなった。

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