3 エアガンカチッと踵をめがけ逃さないパンと狙いうち
時田総司は生まれながらにしてスナイパーだ。
彼が小学校3年生6月での出来事がそれを物語っている。それは偶然ではない。隠されていた才能が、必然のように露わになった瞬間だった。
「竹田君が、家行った時にゲームやらせてくれんからコレで撃とうや」
1つ上の福田君が右手に、脅しには使えても、殺しには向かない道具をチラつかせる。それは銀色の樹脂製の玩具銃だ。
「……分かった」
比喩や冗談を額面通り受け止める時田は、二つ返事で答えた。週末、竹田邸で――、
「竹田君、ちょっと外で遊ぼう」
「そうだ、外で遊ぼう」
福田君と時田の2人は、これから何が起こるか露知らずの竹田君を、穴だらけの誘い文句で屋外へ誘う。
「? 良いけど……」
彼は、不自然さを気取ったものの、その誘いに乗った。そして――、
「カッチャ……」
「覚悟――!!」
銃をコッキング――、つまりは上部をスライドさせいつでも襲う支度を整えた福田君は、竹田君にその黒い円孔を向けた。
「ぎゃ――――!!!!」
樹脂製の橙の弾に殺傷能力はないのだが、死の危険を覚えた竹田君は血相を変えて走り出した。そこで時田は――、
(上は、顔……目に入ったら危ない……脚、踵は硬いからそこを狙おう)
「パン!!」
空気を裂く乾いた一音が、場を制圧した。銃を手に取って初めて生きている人を狙った時田の弾丸が一閃――、竹田君の踵を捉えたのだった。
「!!……」
彼は撃ち抜かれた場所に手をやり、崩れ、落ちる――。
「馬鹿! ホントに当てるヤツがあるか!! 空を狙えって意味だったんだぞ!」
福田君は、平静を装う余裕すら失った表情を見せ、時田に迫るが……。
「へ?『撃とう』ってこういうコトじゃないの……?」
「!!――」
その2日後――、
シゲミが息子、時田総司を庭に呼んだ。右手にはギラりと怪しく輝く銃玩具を構えて――
「これ、こっちに来なさい」
「……?」
シゲミは、父との信頼関係に何の疑いも持たない時田を穴だらけの誘い文句で誘導する。
「うん」
息子は、違和感すら覚えず誘いに乗った。そして――、
ガッと、父は息子の腕を握った。更に――、
「パァン!!」
その左腕をゼロ距離で撃ち抜いた。
「っ!!」
父は問う。
「痛いか?」
「……。少し」
当然の如く激痛を感じていたが、多少ムッとしたのだろう、強がって『少し』と口を動かしたのだ。
「そうか……」
父は次の瞬間、息子が身に着けていた長袖のシャツをひん剥いて、地肌をゼロ距離で再び撃ち抜いた!!
「!!!?」
皮膚が裂けた様な気がした。未だ成長途中の、小学校3年生の腕が2回連続で発砲されたのだ。しかも、2回目は地肌に――。
父は掴んでいた腕を放し、スキップでもしそうな程の軽い足取りで寝床に帰って行った。只一言、去り際に残して――。
「竹田君もこれくらい痛かったんだぞ♪」
裁きを下した、正義の味方気取りである。初夏の夕風に独り吹かれた時田は、豆粒大に盛り上がった、赤みの帯びた腫れを押さえ、想うのだった。
(いや、確かに僕が悪いんだけども。僕が悪いんだけども僕が撃ったのは踵じゃん、腕じゃコレ腕。やわかい部分じゃん。いや……痛いじゃん)




