6 あいのままに、わがままに、ぼくはきみだけをきずつけない
嵐の様だった虐待の程度が、小雨に変わりつつあった、時田3歳の頃――、ある日を境に母キヨコを影が侵食していった。
「痛い。……お母さん、痛い……!」
キヨコが時田の姉、かの子に手を上げる様になったのだ。それも殴る、蹴る等、とても指導の範疇を逸脱した、虐待と呼べるものだった。それまでそんな素振りも見せなかったキヨコ。何故、彼女までもが――?
天界でしか存在できない、地上では、身体を押し潰す負荷に、呼吸という行為そのものが試練になっていた太陽神キヨコは、遂に限界を迎えた。負荷は肉体疲労となり、肉体疲労は精神を蝕み、心は砕け、彼女は壊れてしまった。
彼女の精神的破綻は、結果として虐待を生み出した。当然の様に、かの子の弟、時田にもその毒牙が向けられたのだった。
「身体が、痛い……。腹が、へった……」
傷害行為(身体的虐待)
そして、
ネグレクト(無関心という虐待)
彼へ向けられた攻撃(虐待)である。
火も米も管理できない年齢に、食の自立を求めること自体が酷だった。時田が自ら腹を満たすことが出来る筈もなく、埃まみれになった部屋で、床に積もったそれを口にしていた。
「ん? 総司は?」
父、シゲミが仕事から帰ってきた。それは決して救いの手では無く……、
「こんなところに居ったか、汚い奴め」
彼が放置されていたコトに気付きもしない父に、只唾を吐かれるだけの結果に終わる。日に日に時田は衰弱していき――、
「総司……!? 総司!!」
いつしか実家から訪ねてきた祖父や曾祖母の目によってそれは発覚した。ぐったりと、生気を失った時田は瀕死の状態で見つかったのだった。すぐさま時田は二人の足で病院に搬送された。
「栄養失調状態ですね。それに……」
「?」
「小児喘息を患っています」
医師は病名を告げた。原因はハウスダストによるものだと言われた。この頃からキヨコに対し、父方の祖父、曾祖母の不信感が募っていき、小さなひびが、やがて修復不能な亀裂へと変わった。
「それでも親かぁ!?」
「!!……。私だって……私だって辛いんですよ!」
「何おう!? 産んでおいてありゃあなかろうが!!」
理解されるハズが無い。
『私は太陽神です』等と言って、誰が信じようか? そんなコトを口走れば、そういった病院を勧められるのがオチだ。
それでも、できることなら分かってほしかった。呼吸という当たり前が、もはや許されていない、そんな状況で人を育てるのが、どんなにも肉体が耐えきれない苦難なことかを――。
一方で、時田はこの頃から総合病院への入退院が繰り返されることになる。と同時に、物心がつくに連れて霊的な力を失い始めた。前世の記憶や現世で果たすべき目的を忘れ、水の上を歩くという芸当も全くできなくなっていったのだ。持ち前の判断力も、陰りを見せてきた。
そんな中――、
シゲミは時田に呪いをかける様になっていった。
『お父さんは総司を愛しているよ』
造られた、偽りの愛情――。シゲミは時田の脳内にまじないをかけ、記憶の改竄をおこなった。




