3 連休を喜べない者も居る――。そう、夫の食事を作る量が増える主婦とか、優越感に浸れなくなるニートとか
時田の頭部――、それは凹凸があり、額には先述した通り火傷傷がある。それは傷跡が虐待の数々を痛々しく物語っている。その跡は、一生涯残り、外面も内面も深く傷ついたことを、鏡を見る度に思い出す――、そんな人生を時田は送っていくコトだろう。
「ギャッ!!」
時田はトンカチで、シゲミに殴られた。鈍い音がして、顎の先まで衝撃が走った。
(痛い――、こんのっ!!)
彼は殴ってきた新しい父親の、無機質な目を生温かい雫に歪む視線で睨み返し――、
ダッシュで逃げた。
「ハッ……ハァッ……! ババアの次はっ……! ハァッ……! あのオッサンかよ!?」
家を飛び出し、踊り場を走り抜け、階段を駆け下りた。痛みと苦しみから逃げ延びる為、赤子は当初の目的――、神を殺すどころではなくなっていた。
「ハァッ……ハァッ……! ざまぁねぇな……! ハァッ……ハァッ……! 自分の身の安全一つ……! 守れねぇで居やが……!!」
気付くと時田はヒョイと脇から抱え上げられていた。
「コラコラ、総ちゃん。家出はダメでちゅよ~」
「母さん!?」
時田を抱え上げたのはキヨコだった。まるで緊張感の無いキヨコの振る舞いに、時田は苛立ちを覚えた。
「母さん! アンタの夫は、最低なんだ!! さっきもトンカチで殴られた!!」
「?――、そんな訳ないでしょ。お父さんはね、とっても優しい人なの。ちょっとだけ、不器用だから伝わらないんだと思うなー。それにね、とっても面白いの。この前なんかね、花咲じいさんの事を、『離さんかじいさん』なぁんて……」
「馬鹿ぁ!! 騙されてっぞ!」
余りの呑気さに堪らず時田は声を大にして、憤怒をそのまま言葉に変え、怒鳴りつけた。
「!……」
「あっ……。母さん……?」
母は背中に居たので、子はその表情を確認することはできなかった。しかし、フルフルと小刻みに揺れる身体の様子は感じ取れた。
「あ……(このトンチンカン、これくれぇで傷付いたわけじゃねぇだろうな……?)」
そっと母は口を開く。
「総ちゃん。そんなにご機嫌斜めで、お腹が空いてるのね! 今日は肉じゃがよー! 美味しい香りをいっぱい吸って、ミルクを飲んでね!!」
「ダァー!! 馬鹿ぁ!!!!」
夜――、下手をすれば命に係わる程の虐待を、シゲミから受ける日々を過ごす時田だったが、この時間帯だけはウソの様に平和だった。
「ガァ―……ガァ―……」
「コイツ……今襲えば勝てるんじゃね?」
シゲミはロングスリーパーだった。平均睡眠時間は9時間を優に超えている。時田はシゲミに気付かれぬ様、こっそりこっそりと慎重に寝いびきのする場所へと歩いた。
そして――、
「ていっ!」
ズブリと、
両手の指を使って右眼球を狙い、目潰しした。
「!!!!!!!!!!!」
(ちょっとは効いたろ? 気付かれん内に撤退だ!)
「あぅん! よぃん!! あぅん! よぃん!!」
右目を押さえ、シゲミはのたうち回りながら悶え苦しんだ。
「へっ、ざまぁ見やがれ」
5月――、世間でいう、GWに差し掛かるところで時田は一つの問題に直面する。そう、路上の赤信号の様な、無視しては進めない、避けては通れない様な問題である。
「おい……総司。連休には実家に帰るぞ。よぃん」
「!?」
実家には、宇宙創造神が居る……!!
(フサヨ(ババア)とシゲミ(オッサン)。ダブルパンチの虐待が、俺を襲うのか……!?)
時田は頭を抱え、うなされていた。




