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第五章:八人目の裁き



No.1. 憎悪と共闘の始まり


 血と火薬の臭いが充満する茶屋の広間。

 床には、丈之助、典膳、紋次、吾郎、源蔵の五体の死体と、六平太の瀕死の体が横たわっていた。


 黒岩 鉄馬は左腕の傷を押さえながら立ち上がり、島津 兵吾は肩の傷から血を流し、激しく呻いていた。

 そして、床下から現れた盗賊団の頭領・錠次は、鉄馬に殴られて倒れたお咲を庇うように、火縄銃を構えていた。


 「薩摩の落人よ。貴様は俺を憎んでいるだろう。だが、丈之助を殺したのは奴らだ。俺たちがここで死ねば、奴らだけが生き残る」


 鉄馬は、自らが生き残るため、そして丈之助の無念を晴らすため、憎悪の対象である島津に共闘を持ちかけた。

 島津は血で汚れた口元を拭い、激しく呼吸した。


 彼は鉄馬の全てを嫌悪しているが、目の前で賊を野放しにすることは、代官代理としての大義を失うことになる。


 「…ちっ。汚らわしい元人斬りめ。わかった。ここで野盗に負けるわけにはいかん。だが、これは貴様のためではない。武士の恥を雪ぐためだ!」


 憎み合う鉄馬と島津の二人は、それぞれ刀と拾い上げた鉄の鎖を構え、火縄銃を持つ錠次と、横たわるお咲を睨みつけた。




No.2. 最後の激闘と錠次の結末


 茶屋の広間は、逃げ場のない最後の決戦の場となった。

 錠次は火縄銃の火薬を装填し直し、一歩踏み出した鉄馬を狙って引き金を引いた。


 ドォン!


 火薬の轟音と共に、鉄馬は俊敏に体を捻り、銃弾を避ける。

 その隙に、島津が床に落ちていた典膳の太刀を拾い上げ、薩摩仕込みの示現流の鋭い一撃を放った。


 鉄馬の荒々しい丈之助の鎖を用いた技と島津の正確な抜刀術が、ここで噛み合った。


 「二人がかりとは卑怯な!」


 錠次が怒鳴る。


 「貴様らこそ、罠を張り、毒を盛った卑怯者だ!」


 鉄馬が応酬し、錠次の足元へ鎖を叩きつけ、体勢を崩させた。

 島津は、体勢を崩した錠次の隙を見逃さなかった。彼は肩の激痛に耐え、渾身の力で太刀を振り下ろした。


 錠次は、力尽き、お咲の傍らに倒れ伏した。


 彼は、最後までお咲を逃がすことができなかった。




No.3. 拷問とお咲の真意


 錠次が倒れると、鉄馬は再びお咲に鎖を繋いだ。


 「丈之助を殺したのは、お前の仲間だ。貴様も同罪だ。吐け。錠次の仲間の場所はどこだ」


 鉄馬が詰問する。


 お咲は、諦めたように、笑みを浮かべた。


 「馬鹿な人斬り。もう、仲間なんていないよ…六平太も瀕死。源蔵も死んだ…錠次が毒を盛ったのは、丈之助の鎖から逃れるためだけさ」


 彼女の目は、倒れた丈之助と、錠次の顔を交互に見ていた。


 「丈之助の鎖は、何よりも頑丈だ。あれを外すためなら、どんな手でも使う。錠次がやったのは、あたしを逃がすためだよ…」


 鉄馬は、錠次が毒を盛ったのは、茶屋の人間を混乱させ、お咲の鎖を外させるという、極めて単純かつ冷酷な目的だったことを知る。


 床下に潜み、毒を仕込ませたのも、錠次自身だったのだ。


 彼は、残された瀕死の六平太、源蔵、典膳、そして五郎(車夫)に目を向けた。

 錠次を除く八人の悪人(と巻き込まれた者)の中で、今や裁きを受けねばならないのは、重罪人であるお咲の一人だけとなった。




No.4. 二人による絞首刑


 鉄馬と島津は、倒れた丈之助の遺体の傍らに立ち、錠次と、鎖に繋がれたお咲を、囲炉裏の梁へと連れて行った。

 鉄馬は、丈之助が捕らえたお咲の鎖と、錠次を拘束した鉄の鎖を、お咲の首に巻き付けた。


 「丈之助は、貴様らのような悪党を、生きたまま引き渡すことに固執した。その意地を踏みにじった代償だ」


 鉄馬は、自分の過去(人種差別や戦争の傷)と、島津の偏見を乗り越え、協力して悪党を追い詰めた。

 彼らの間には、憎しみだけではない、奇妙な共犯意識が生まれていた。


 「薩摩の落人よ。公儀の裁きではない。これは、この茶屋に集った悪人による、八人目の裁きだ」


 「ああ。これこそが、この吹雪が呼んだ大義だ」


 島津は、己の正義と、目の前の現実を受け入れた。

 鉄馬と島津は、憎み合いながらも、鎖の端をそれぞれ握りしめた。


 二人は、同時に、鎖を力強く引き上げた。


 重罪人であるお咲は、吹雪の音にかき消されることなく、梁から吊るされ、絞首刑が執行された。

 これで、茶屋に集った悪党の物語は、凄惨な形で幕を閉じた。


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