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辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第一部 ノタクロエのフィールドノート

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9/56

「辻沢ノーツ 9」(町長の辻川雄太郎です)

 町長室は薄暗かった。


正面は一面窓になっていて、あたしたちが座っているところからは薄暮の空が見えるばかりだったけど、窓辺に立てば辻沢の町を一望できそうだった。


右手はショーケースで、おそらく町内の学校のものなんだろう、沢山の制服が飾ってある。


左手の壁は飾り棚になっていて、トロフィーや盾類が並んでいる真ん中に黒い木刀が飾ってあった。


入り口側の壁を背にして、マホガニー調のびっくりするほど大きな机と、高すぎる背もたれの椅子、床には虎皮の絨毯が敷かれていて、そこだけ見ると反社の事務所のような仰々しさだ。


その後ろの柱には額に入った代紋、ではなくて町章が掲げてある。


町章は辻の字に6つの小丸を配したデザインだ。


「特産の山椒の実があしらってある」


 鞠野先生が説明してくれた。


「やあ、お待たせしました。町長の辻川雄太郎です。鞠野先生ですね」


 奥の扉から現れた町長さんは、すらっとして背が高く彫りの深い顔立ちの、ちょいワルおやじな方だった。


髪の毛の量については触れないことにする。


「まあ、座ってください。君たちかね、この辻沢を調査しに来たというのは。


もっとこう、黒ぶちメガネの堅苦しそうな男連中が来るのかと思ったが、こんな美しいお嬢さんたちとは。


先生あれですか? 文化人類学の調査というのは本来むさ苦しい男が(ピー)の住むような辺境に単身分け入って何年もかけてするものではないのですか?」


 わー、差別発言まで。がっかり、今時「予断と偏見に満ちた普通の実際家」(by マリノフスキー)に出会うとは。


「そのような長期の調査も行いますが、今回は夏休みの実技演習として辻沢にお邪魔させていただきますので」


「なるほど、本当は女性はしないが学生だから特別ということですか」


「そう言いますと違うということになりますが……」


 重苦しい空気が流れかけたが、町長室秘書のエリさんがちょうどいいタイミングでお茶を運んできてくれた。


その後は、町長さんの長話を聞かされたけど、ほとんどがどうでもいいような話だった。


「夏祭りを調査されるというのはあなた?」


 突然矛先があたしに向けられた。


調査対象変更前の情報がそのままだったらしい。


「あの……」


 返答に困っていると、


「ならば教えて差し上げよう。辻沢ヴァンパイア祭はもともと辻沢三社祭といって4年に一度の……」


 から始まって辻沢復興の苦労話まで、


長大な自慢話をようやく切り上げてくれたのは開始から1時間後だった。


その間あたしたちは無言で頷くのみ。


「まあ、困ったことがあったら、この秘書に何でも言うといい。対応は迅速ですよ。名刺をお渡しして」


 エリさんが鞠野先生に向かって、


「明日の辻沢ヴァンパイア祭は参加されますか?」


 どこか遠い所から語りかけてくるかのような不思議な声で聞いてきた。


「そのつもりでいます」


 鞠野先生がすこし上ずった声で答えると、町長さんがあたしたち3人の格好を上から下まで見て、


「コスプレの用意はして来たかい? 女はヴァンパイアコスプレをする決まりだ」


 鞠野先生があたしたちの方を見たけど、


「「「ないです」」」(小声)


 首を横に振るしかない。


「なら、駅前のスーパーヤオマンに行きなさい。あすこなら品数も揃っているから。例のものを」


 町長さんがそう言うと、エリさんが小脇に挟んだブリーフケースから封筒を差し出して、


「中に3000円のゴリゴリカードが入っています。ご来庁を記念して辻沢町からのプレゼントです。お受け取りください」


 鞠野先生が困ったような顔をしているので手を出さずにいると、町長がそれをエリさんの手からもぎ取って、


「これはあたしが作らせたものだが、辻沢だったら何にでも使えるプリペイドカードでね。


スーパーでの買い物はもちろん、自動販売機だってOK。


食事もできるし、バスにも乗れる。何に使っても10%割引、ヤオマンジムや大門総合スポーツ公園で運動すると次回の割引率が20%になる。


カードのデザインは、宮木野線沿線の8つの女子高の制服、夏冬バージョンで16種類。モデルはその学校の生徒だ」


それから右手のショーケースを指して、


「あの制服はその時の撮影に使ったものだ」


 あたしがそれに気を取られてる隙に、町長はあたしのカバンに封筒をねじ込んだのだった。

 

 挨拶が終わって帰る時、展望エレベーターがすでに止まっていて、東棟のエレベーターまでエリさんが送ってくれた。


途中、エリさんがあたしの耳元で、


「町長はコスプレと言いましたが、本当はヴァンパイアコーデなんです。そんなに大げさな格好をしろというのではないのですよ」


 と囁いた。


 エレベーターのドアが閉まる時、エリさんが薄っすらと微笑んだ。


その真っ赤な口の端の八重歯が白く際立って見えた。


 ようやくご挨拶回りが終わった。

 

今日明日のエネルギーの90%を使った感じだ。

 

あとはホテルに行って、明日の事前調査の準備。


その後は辻沢の繁華街に繰り出して、酒だ酒だあ!

(毎日2エピソード更新)

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