「辻沢日記 27」(紫子さん)
今日からは本格的に調査地に入る。
フィールドは傀儡子神社なので。調査ベースを四ツ辻に変える。
大曲から四ツ辻の通いだと、バスを乗り継いで1時間以上かかってしまい調査に支障が出る。
それになにより、四ツ辻には古い知り合いの紫子さんがいる。
「四ツ辻公民館まで」
(ゴリゴリーン)
ゴリゴリカード少なくなったから、新しいの買おう。
「運転手さん、2000円のゴリゴリカードください」
「好きな柄はあるかい?」
「じゃあ、桃李女子高の夏服とかありますか?」
「あるよ。はい。♪桃李もの言わずとも……」
節を付けて言うのでつい、
「♪木の下小道が出来る」
と続けた。桃李女校歌の一節だ。
「卒業生? 才女さんだね」
ちょっと照れ臭い。
◇
―――高校入試の時。
あたしが桃李女子高に行きたいとオトナに伝えたら、ユウと辻女に行けと言下にはねつけられた。
オトナは二人一緒に地元の辻女に行かせるつもりでいたらしく、あたしたちの希望など鼻から関心がない様子だった。
あたしの成績は中学でも上位で、希望すればどこでも行けた。
県内屈指の難関校といわれた桃李女も頑張れば行けるレベルだった。
対してユウは辻女が無難なところだった。
内申書とかそういうのがまったく効力をなさなかったからだ。
傀儡子使いとしての役目を果たす為にはユウと同じ高校に通うほうがいいに決まっている。
そうするとあたしの方がユウに合わせる必要がある。
それは分かっていたけど、あたしは地域でも珍しい非工業系の桃李女の建築科に行きたかった。
建築デザイナーの道に進みたかったからだ。
あたしは何度も希望をオトナに伝えたけど、まったく請け合ってもらえない。
一度など、希望理由を20枚のレポートにして提示までしたけれど返ってきたのは、
「却下。辻沢女子高校に行くべし」
の一文だけだった。
学校に進路希望を提出する日のこと。
朝のホームルームの時まであたしは志望校を書けずにいた。
でも担任に急かされて、あたしはやむなく第一志望に辻女を書き、桃李女を第二志望にして提出しようとした。
すると珍しく登校していたユウがそれをもぎ取って、第一を消して、第二を一に変えて、自分のと一緒に提出してしまった。
びっくりしたと同時にありがたかったけど、そんなことをしてもオトナが了承しないことは分かっていた。
帰宅すると案の定、担任から確認の連絡があったらしく、状況説明を求められた。
あたしが正直に伝えると、オトナは納得したのか、それ以降は辻女に行けとは言わなくなった。
後から知ったけど、それはユウが辻女に行くことと引き換えだったのだ。
ユウは早くオトナの影響下から抜け出したかったのだろう、最初から高校には行かず働きに出るつもりだったそうだ。
しかし、オトナはユウを監視下に置き続けるためにも辻女に通わせたがった。
ユウはあたしを桃李女に行きたがっているのを知って、自分の志望書に辻女と書いて提出したのだった。
ユウはそういう優しいところがある。
そんなことも知らず、あたしは桃李女に通うのがうれしくて毎日浮かれていたのだ。
そんなだったからユウとあたしとの間に隙間ができて、いつしかユウはあたしを無視するようになっていったのだと思う。
◇
〈次は四ツ辻公民館です。わがちをふふめくぐつらや、地獄の門前、四ツ辻へようこそ〉
(ゴリゴリーン)
公民館の裏手の坂道を上がって行くと、一番奥に紫子さんの家がある。高校卒業以来だから会うのは丸二年ぶりだ。
「よく来たね。どうだい都会生活は?」
紫子さんには手紙で近況報告をしている。
摘み終わった山椒の実が盛られたザルが並んだ土間に顔をだした紫子さんは、おそらく40代だと思うが辻沢あるあるで年齢不詳。
落ち着いていて、肌が透き通るようでとても綺麗な人。四ツ辻の世話役だ。
紫子さんと出合ったのは、あたしがユウと出会った頃で、色々なことを知っていてくれる人なのだった。
(毎日2エピソード更新)
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この続きは明日21:00公開です
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