「辻沢日記 26」(パジャマの少女)
蘇芳さんの軽トラックでバス停まで送ってもらって、お礼して別れてから何分たっただろう。
たしか、17時台に一本来るはずだったのにもう18時を過ぎている。
バス停は、農園前の通りを挟んで反対側の深い谷間に迫り出すように設けてある。
まだ空は少し明るいけれどバス停の周りは既に暗く電灯がずっと前から灯っている。
こんな人も通わないような所に一人でいるのはさすがに心細い。
こういう峠の道にヒダルが出るって鞠野フスキが言ってたのを思い出した。
さっき残しておいた実サンショウの塩漬けにぎりを食べたばっかりだからお腹のほうは大丈夫。
谷の底から、ジーーーーという耳鳴りのような虫の声とギョギョギョギョというどんな生き物のものか分からない不気味な鳴き声が聞こえてくる。
じっとりとした空気のせいで汗が首筋を伝う。
山に反響して車のエンジン音が聞こえてきた。
やっとバスが来たみたい。
遠くを見ると稜線のカーブを曲がってヘッドライトの光をまき散らしながらバスが近づいてくる。
行き先表示には「38 辻沢駅」とあった。大曲経由は38番線だ。
バスがゆっくりと止まって扉が開いた。
「大曲行きますよね」
「はい」
「じゃあ、大曲まで」
(ゴリゴリーン)
乗客は一人もいなかった。
あたしは中扉に近い席に座った。車内はクーラーが効いていて一気に汗が引いていく。
すぐ出発するのかと思ったらなかなか発車しないで何かを待っている様子。
こんなに遅れて時間調整というのも変だなと思っていると、運転手さんが入口に向かって身を乗り出し、
〈乗るのかい?〉
と車外マイクで声をかけた。
誰かが来るのを待っていたんだ。
少し間があって運転手さんが、
〈いや、だめだ〉
と言うと、すぐに扉が閉まりバスが急発進した。
激しい動きに体を揺さぶられながら窓の外を見ると、バス停にパジャマ姿の女の子が立って、こちらに手を振っていた。
しばらく走ってから運転手さんがマイクロホンで、
〈お客さん、変なのに好かれたみたいだね〉
「変なの。ですか?」
〈ああ、普通の子はパジャマ姿で「乗ってもいい?」なんて聞いてこないからね〉
と言った。
そしてマイクロフォンを切ると、
「ゴリゴリゴリゴリゴリ」
口でゴマスリのまねをしだした。ヴァンパイア除けのゴマすりポーズ出来ないからだ。
あの「変なの」はずっとあたしのことを付け狙ってたのだろうか?
どうして襲わなかった?
空飛ぶ生き物は前触れもなく襲って来たのに。
ということはまた違う生き物?
とりあえず今回は蘇芳さんに持たせてもらった実サンショウの苗木と体中がサンショウ臭かったせいと思うことにしよう。
5日後、蘇芳さんの農園での作業が一段落した。
その間、蘇芳さんのご厚意に甘えることはしないで毎日大曲からバスで通った。
蘇芳さんは、それじゃああたしの気が済まないと帰りだけはバイパスのバス停まで車で送ってくれた上、バスが来るまで一緒にいてくれた。
初日のパジャマの子の話を聞いてもらったのもあったと思う。
すごく心強かった。
ただ、毎日違う種類のサンショウの苗木を持たされるのには少々困った。
おかげであたしのホテルの部屋はサンショウの見本市状態。
(毎日2エピソード更新)
続きはこのあと21:10に公開します
おもしろい、続きを読みたいと思ったら
ブクマ・★・いいね・一言感想で応援いただけると嬉しいです٩(*´꒳`*)۶
よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾
たけりゅぬ




