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辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第二部 辻沢日記(コミヤミユウのセルフライフドキュメント)

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「辻沢日記 25」(夏、辻沢入り)

 7月最終日の昨日で前期試験が終わり、今日からいよいよ夏休み。


そしてようやく本格的に辻沢入りだ。


 辻沢に着くとすぐ、ある山椒農家から収穫の手伝いに来てほしいと依頼があって、初日から辻沢サンショウと格闘することになった。


辻沢サンショウとは昔から辻沢で栽培されている実サンショウで、多くは佃煮に利用される品種だ。


よく流通している種と違い、辻沢サンショウは棘の残る原生種に近い品種だ。


それゆえ素朴で芯の太い味と野生味のある香りがして人気だそうだ。


ただ、棘のせいで収穫は大変で、厚いゴム手をしなくては怪我をする。


サンショウの実の房を摘まんで収穫するのだけど、枝の奥の方にある房をもぎるときは、うまく枝をよけないと手だけでなく腕や顔まで傷だらけになる。


だから素人のあたしは一日作業すると文字通り満身創痍になった。


 陽が落ちて初日の作業が終わり、手伝いのみんなで母屋の縁側でくつろいでいたら、農園主の蘇芳さんがおにぎり山盛りの大皿を持って現れた。


この人、辻女出身でなんとあたしと同い年(ユウのことも「ああ、あの変わった子ね」程度には知っていた)。


黄色いいダッドハットを被り(おでこのマークはマリファナでなく木ノ芽)黒地に黄色い文字でX=Longとロゴが入ったTシャツの袖をまくり上げている。


この若さでひとりでこの農園を切り盛りしてるって、やばくない?


蘇芳さんはおにぎりを自分で一つ取り、


「皆さんもどうぞ」


 と言って食べはじめた。


 遠慮なくおにぎりを手にして見ると中に緑色の粒が混ぜてある。


口にすると塩味の他にピリッとした辛さがあってとてもおいしかった。


「おいしいです。山椒ですか?」


 と聞くと、


「実山椒の塩漬けだよ」


 と蘇芳さんが屈託のない笑顔を向ける。


そして、あたしが腕に絆創膏を貼っているのを見て、


「棘、やっかいでしょ」


 と申し訳なさそうに言ったあと、あたしの耳元で、


「例のあれを寄せ付けないためなんだけど」


 わざと無棘改良せずに残してあるらしい。


 辻沢にサンショウがもたらされたのは江戸の初期、ヴァンパイア除けのためだったという。


たしかに、こんなに刺々しかったらヴァンパイアも嫌がると思う。


でも、それで血だらけになっていては逆におびき寄せてしまいそうなんだけど。


だからいい加減な話。


「お、あねさんは新しい摘み子かい?」


 背後で声がした。振り向くと蘇芳さんのお兄さんほどの人が立っていた。


「この人、作左衛門さん。ウチの親戚の人」


 年のわりに古風な名前なのは農家だからかな。偏見かもだけど。


「よろしくね。どれ見せてごらん」


 と、作左衛門さんがあたしの傍らにしゃがむと目をのぞき込んでかなり長い時間そうしていた。


あたしも作左衛門さんの目を見返したけれど、農家の人にしては日に焼けてなさすぎなのが気になった。


「作左衛門さん、近いよ」


 蘇芳さんに言われて、


「すまんことで。つい……」


 と、作左衛門さんは立ち上がると、


「それにしてもあんた、これからひだるいね」


 と言った。


ひだるいとは辻沢の古い言葉で疲れたとかしんどいとかいう意味がある。


「はい。慣れるように頑張ります」


 それに対して作左衛門さんは、


「そうかい。まあ用心しなさい」


 と言って部屋の奥に入っていった。


「ごめんね。作左衛門さん、人相観るの好きなんだ」


 あたしの人相を観てたんだ。


これからあたしの何がひだるいって言ったんだろ?




 帰り際、蘇芳さんが


「何か調査してるって聞いたから」


 と、あたしにだけ実サンショウの苗木を持たせてくれた。


あたしの背丈より少し高いくらいのものだ。


あたしの調査テーマの「辻沢の建築文化」に山椒の苗木は全然必要ないと思うけど、せっかくなのでありがたく頂戴することにした。


拠点のホテルに置かせてもらえるといいのだけれど……。


「下のバス停まで送るよ」


 蘇芳さんのサンショウ農園は広く、山間のバス通りまではずっと農園内の私道だ。


それを歩くと20分近くかかる。


他の手伝いの方たちは自分の車か、知り合いの車に分乗して来ているので勝手に行き来しているけれど、あたしは今朝もバスで来て停留所からは歩いて登って、それこそひだるい思いをした。


 蘇芳さんが運転する農作業用軽トラの助手席で何度も天井に頭をぶつけそうになりながら大揺れに揺れる農道を行く。


蘇芳さんは本当に同い年? ってぐらい逞しい。


腕を窓から出して軽トラのハンドルを片手で操る蘇芳さんはまさにアニキって感じ。


女子のはずだけど。


「あんたも辻沢の人みたいだから分かると思うけど、本当に気を付けなね。あれで作左衛門さんの人相観はけっこう当たるからね」


 そう言われても何をどう気を付ければいいのか。


「よかったら手伝いの間だけでも、ウチんとこ来ないか?」


 言うことまでアニキ。


(毎日2エピソード更新)


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この続きは明日21:00公開です


よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾


たけりゅぬ

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