「辻沢日記 17」(エニシの切断)
「どうしてスレーヤー・Rにこだわるの?」
ユウがあたしから目を逸らした。言いたくないらしい。
「けちんぼ池です」
と夜野まひるが口にするとユウが舌打ちした。
「けちんぼ池って、夕霧物語の最後に伊左衛門たちが沈む?」
夕霧物語。
それは傀儡子の証と言うべき記憶だ。
ユウはもちろんクロエも、傀儡子の端くれであるあたしやミユキもそれを有している。
夜野まひるはそれをユウから聞いたのだろう。
「そうです。それをお探しです」
と、うれしそうに夜野まひるが言う。
「ユウはけちんぼ池を見つけて何をするつもりなの?」
見つけようとしてもなかなか見つからないから《《けちんぼ》》池。
「言わない」
ユウは駄々っ子のようになっている。こうなると、あたしはいつもお手上げだ。
「埋めちゃうんです」
夜野まひるがいたずらっぽく言った。
「どうして?」
と聞くとユウが、
「邪魔だろ、あんなもの。あれがあるからエニシなんかが付き纏う」
あたしだってエニシという言葉にいい思いはないけれど、その当の本人から邪魔だと言われたら案外寂しい気持ちになるんだと初めて知った。
ユウの真意知りたくて、あたしはユウの顔をまじまじと見てしまった。
ユウと目が合うと、
「誰にも言うなよ」
ときつめに言った。
この場合はオトナにってことだろうけど、こんなこと言うわけない。
夜野まひるがさらに話を続ける。
「夕霧太夫と伊左衛門とがいて、そこにひだる様が沢山集まればけちんぼ池が現れる。ですよね」
夕霧物語の一行は青墓の杜でひだる様の猛攻撃を受けて壊滅寸前になる。
そしてその後、窮地を脱した夕霧太夫と伊左衛門がけちんぼ池に沈む。
「ボクの直感ではそれでいけるはずなんだけど」
夕霧と伊左衛門となって青墓に大量に現れた怪物と戦えばけちんぼ池に行けると思ったという。
「でも、だめでした。伊左衛門役はあたくしには力不足でした。きっとどなたか適役の方がいらっしゃるのでしょう」
夜野まひるがユウの横顔に向かって申し訳なさそうに言う。
それに対してユウが、
「あんたは傀儡子でないのによくやったよ」
と優しい口調で夜野まひるを労った。
あたしは他人を気遣うユウを初めて見た。どうやら二人にとってこのことは相当センシティブな問題らしい。
あたしが二人のやり取りに興味をそそられているのに気づいたのか、ユウが慌てて話題を変えた。
「あーあ、バグでもないかね。ゲームみたいに」
「コリジョン抜けですね。壁を抜けたり岩に入ったり」
「そうそれ」
「抜けた先にけちんぼ池が広がってるといいですね」
二人はお気楽に言ってるけれど……。
そんなことあるわけないよ。
(毎日2エピソード更新)
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