「辻沢日記 15」(死せる天使)
危険な匂いがする女、黒制服女の足音が近づいてくる。
体がだるい。
起き上がろうとしたけど金縛りにあったようで動けなかった。
ユウはあたしの隣に仰向けで倒れている。
こんなんじゃユウを連れて逃げられないや。
ほんとにしつこい人たちだ。
いいかげん二人のことは放っておいてほしかった。
「さあ、お手を」
その女があたしとユウに両手を差し伸べた。
最初にそれに答えたのはユウだった。
その女に礼をして起き上がったユウの背中には泥や枯葉がついていて、立ち上がった拍子にその中の一枚がひらひらと舞い落ちた。
ちょうどその場所にリクス女の頭が転がっていて、見開かれた瞳はさきほどの銀色からガラスのビー玉に変わり、すでになにも見ていないようだった。
「あそこにもう一匹飛んでた」
ユウの声だ。
「逃げたようですわ」
二人が会話を交わしている。敵じゃなかったの?
あたしがユウを見上げているとユウが体についた枯葉を払いながらこちらに振りむき、
「大丈夫か?」
と言ってあたしの顔を覗き込んだ。
ユウの顔は赤黒い血汚泥に染まっていたけれど、その間から見える地肌はいつもの透き通るような色をして傷はどこにも見当たらなかった。
よかった。でもなんで?
女もこちらを向いてユウの横にしゃがむとあたしの喉に手を当てた。
その手はとても冷たくて火照った喉元に心地よかった。
そしてあたしの顔の前で手をひらひらさせて、
「起きられますか?」
と聞いてきた。
声を出すのも億劫だったので目で答えると、女は両腕をあたしの体の下に差し入れてそのまま一気にあたしのことを抱き上げた。
びっくりしたのとリクス女の怪力を思わせたから、あたしは怖くなって体を固くした。
でもとにかく全身がだるいのでそれも長続きしない。
あたしは女に身を任せるほかなかった。
「車までお連れしましょう」
黒制服の女がそう言った時、傍らで炎が立ち上がった。
目線をそちらに向けると発火するリクス女が見えた。
その炎があたりを明るくして、あたしを抱えた女の顔がはっきりと見えた。
そしてやっと気が付いた。見たことがあるはずだった。
REIGN♡IN♡BLOODSの闇センターにして死の大天使、夜野まひるだったから。
あたしは今、推しのゲードル(ゲームアイドル)に抱っこされてる。
すごくドキドキした。
でも、でもでも、RIBってあの飛行機事故で全員亡くなったんじゃ。
こっそり顔をよく見ようとしたら目が合った。
「搾りつくされなくてよかったですね」
と笑った夜野まひるの口元に銀色の牙が光った。
そうするうちに、あたしたちを襲ったリクス女は、紫の炎を上げて燃え尽くし最後は青墓の土に吸い込まれるかのように消え失せたのだった。
辺りには静寂と共に松脂の匂いが漂っていた。
ユウが運転する赤いオープンカーで駅前通りのヤオマングランドホテルまで乗せられて行った。
夜野まひるの、ここ数週間の滞在先だという。
あたしは推しに最上階のスイートルームにお姫様抱っこで連れていかれソファーの上に横たえられた。
汚れた体を温いオシボリで拭いてくれたあと、夜野まひるが、
「これをお飲みなさい」
と牛乳瓶のストローを差し出した。
一口飲むと、それはドロドロのすっごく濃い牛乳のようなチーズのような、いただいたのに申し訳ないが、はっきり言ってクソまずい飲み物で一口で吐きそうになった。
それでもあの夜野まひるがもっと飲めと言ってくれるので頑張って半分まで飲んだけど、そこでごめんなさいした。
するとユウが、
「よく飲むよ。ボクは二度と飲みたくないね、そんなもの」
と本当に嫌そうに言った。
けれど、それを飲んだせいなのか、だんだん体に力が入るようになって30分もしないうちに起き上がれるようになったのだった。
一息ついてようやく我に返り、ここがセレブの部屋だと気づいて急に落ち着かなくなってしまった。
それでも夜野まひるが勧めてくれたのでシャワーだけは頂くことにする。
とにかく血汚泥にまみれた自分の匂いがいやだったから。
(毎日2エピソード更新)
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