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辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第二部 辻沢日記(コミヤミユウのセルフライフドキュメント)

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「辻沢日記 1」(潮時の傀儡子)

これは、辻沢で死んだ女子大生・ミユウが、

自分で書いたはずのない「辻沢日記」。


第一部『辻沢ノーツ』でクロエが歩いた時間を、

ミユウの視点からなぞりなおす──はずだった。


けれど、月齢とともに訪れる「潮時」、

傀儡子としての発現、屍人と蛭人間の襲撃、

そして血の池地獄へ向かう“最後のフィールドワーク”が、

日記の行間からにじみ出してくる。


誰がこの日記を書き残したのか。

誰のために、辻沢の夏は繰り返されるのか。

  5月半ばだってのにこんな暑いのありか? ようやく帰り着いた感の我が家だ。


「ただいま」


 玄関のマリーゴールド、新しくなってる。出かける時はちょっとしおれてた。


部屋暗い。ミユキいないのかな。


テレビ点けっぱなしだけど。なんだいるじゃん。


またソファで寝てるし。無邪気な顔してさ。


いつもはきつめの表情してるからゼミの人から「フジノ女史」なんて呼ばれてるけど、気を抜くとこういう腑抜けた顔になるってあたしだけが知ってる。


「風邪ひくよ」


 ビクッとなってミユキが目を開けた。しばらくぼうっと天井を見つめてから、


「ミユウか、おかえり」


 と言って気持ちよさそうに伸びをした。起き上がって、


「辻沢?」


 ミユキはいつだって単刀直入だ。


そうだ。あたしは性懲りもなく、また辻沢に行って体よくユウに追い払われて帰って来た。


「会えたの?」


「うん」


「珍しいね。ユウさんに会えるなんて」


 あれは会えたって言えるのかな?


今回も『スレイヤー・R』に参戦して、フィールドを探し回ってようやく見つけたと思ったら、ユウってば全身泥だらけで、何が楽しいのかニコニコと機嫌がよくって、だからあたしを見付けてもいつもみたいに無視して行ってしまわなかった。


「よお、来てたんだ」


 なんて向うから挨拶して来てさ。


で、オトナの意向を伝えたら、


「それだけ?」


 って言って、また青墓の杜の暗闇に紛れて行ってしまった。


「そっちはどうなの?」


 ミユキのお抱えは、クロエ。


「なんか変なんだよね」


「クロエ、どうかした?」


「うん。焦ってる感じする。やってることはいつも通りの救済ごっこなんだけど、ひどく急いでる感じ。前までは一晩で一人二人に付き纏って終わりだったけど、最近は一晩にその3倍はやってるんだ。だから範囲もかなり広がってて追いかけるのが大変」


 ミユキはクロエのおばあちゃんから傀儡子使いの任を引き継ぎクロエの御守りになった。


クロエのおばあちゃんが亡くなったのが去年の十一月だから、なって間がないけど本当によくやってると思う。


追跡用のアプリを自作してクロエのスマホにステルスさせたり、潮時に必ず一緒にいられるように飲みに誘ったり。


ミユキだって自分のフィールドワークがあるのに丁寧にクロエに寄り添ってる。


それに比べてあたしはもう何年もユウとエニシを結んでいるのに手を出すことができていない。


本当に情けない。


「傀儡子使いも楽じゃない」


「それな」


 傀儡子は新月か満月に巡ってくる「潮時」に発現する。

 

普段はかわいい顔をしているユウも、獣の本性を表せば、その暴悪ぶりは誰にも止められない。


ただ一人、エニシで繋がる傀儡子使いだけが、それを制御できると言われている。


といっても元来の意味での傀儡子使いとは違い、糸で操るように支配しない。


―――願う。


願い方は傀儡子使いごとに違うらしいけど、あたしの場合は、


「人を傷つけませんように」


ひたすらエニシに願いながら、夜を彷徨うユウに付き従う。



 中学前のユウは傀儡子に発現するといつも地下道に下りた。


あたしは地下道なんて近づくのも嫌だったけれど、傀儡子使いはついていくのが役目なので震えながら後を追っていた。


地下道は陰気で暗く、カビや腐葉土のような饐えた匂いがしていた。


切れかけた電灯、壁にへばり付いた苔、濡れた地面、小動物の死骸。


全部がきもかった。


 ユウはそんな場所がおきにで、毎回下りていっては、

 

ガキン!


屍人を屠りだす。


地下道の屍人はユウがいるのがわかるかのように群がってくる。


だからユウは一晩中屍人を相手に闘い続けるのだった。


あたしはそれを遠くから見守るだけ。


傀儡子に発現したユウはあたしのことは分らない。


近づけばあたしでも容赦はないからだ。


そして夜明けが近づき、ユウの発現が解かれて意識の閾に落ちたら、


血汚泥にまみれたユウを背負って家に帰るのだった。


ユウに今夜あったことを悟らせないために、


髪と体を綺麗にして、着ている物を全部変えてベッドに寝かせる。


もう傀儡子使いなんて嫌だと思ったことは何度もあった。


でも昨晩あったことを何も知らずに寝息を立てるユウを見ると、次の潮時もユウについて行こうと思っていた。



「クロエもいつか、ユウさんみたいになるよね」


「自覚するってこと?」


 クロエもそうだが、傀儡子は基本的に自分が傀儡子であることを知らずに生きている。


しかし稀に、それを自覚する傀儡子がいる。


年を取ってからの場合がほとんどだが、なかには早熟で若いうちに自分が傀儡子であることを自覚する者がいる。


それがユウだった。

(毎日2エピソード更新)


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この続きは明日21:00公開です


よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾


たけりゅぬ

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