「辻沢ノーツ 51」(閲覧注意動画)
裸足の女性にコンビニまで付いてきたら店員さんに追い払われた。
なんで? って思ったら、コンビニのガラスに映った姿は獣だった。
金色の目をギラギラさせて裂けた口から銀色の牙が出てた。
まさかと思ったけど服装はあたしだった。
あれが傀儡子?
オートエスノの続きを見てみよう。
◇
道を戻ってる。
今度は裏通りをうろついてる。
明るい方に歩き出した。
公園の灯だ。駅裏の公園みたい。
公園のベンチにパジャマ姿の女の子いる。
こんな夜中に一人で何してるんだろう。
なんとなく山吹の医院にいた子に似てるような。
こっちに気付いて手を振ってる。
知り合い?
あたし、女の子の隣に座った。
獣の顔してるのに大丈夫?
あたしは正面を向いたまま座ってる。
女の子が逃げたかどうかは分からない。
また立ち上がった。
女の子いない。
やっぱり逃げたんだろうか。
グルグルグルって唸ってるのは、あたし?
後ろ振り向いた。
数人に取り囲まれてる。
サバゲーの格好して、みんな手にロングスリコギとか水平リーベ棒とか持ってる。
頭にすり鉢かぶって。
これって『スレイヤー・R』の人たちだ。
〈カーミラ・亜種か?〉
〈いや、違うな〉
〈じゃあレアなやつか。おい、リファレンス担当〉
〈『……図鑑』には載ってないな〉
〈そもそも制服じゃないだろ、これ〉
〈なるほどな。上のステージのやつってことか〉
〈ポイント高いぜ、きっと〉
〈絶対逃がすな〉
〈〈〈スレイヤー〉〉〉
襲いかかってきた。
何んなの? あたし蛭人間と間違われてる?
ロングスギコギでカメラの横を突かれた。
あたしってばそれを掴んでへし折った。
相手、武器を取られて尻餅ついてる。
体反転させた。後ろにいたのを殴り倒した。
一瞬で街灯の傘が下に見えてる。
飛び上がったんだ。高すぎじゃない?
そのまま着地して目の前のやつに蹴りをたたき込んだ。
そいつが吹っ飛んだ隙にあたし走り出した。
垣根飛び越えて露地突っ切って。
早く逃げて!。
男の人たち怖い。何されるか分かんないよ。
〈追え!〉
〈大通りのほうに行ったぞ!〉
叫び声が遠ざかって行く。
ずっと走ってる。どこまで走るんだろう。
大きな通り出た。
立ち止まって振り返った。誰も追いかけてきてない。
よかった。逃げられたんだ。
今度は階段下りだした。
地下道に行く気?
画面、暗くてよく分からない。
確かに歩いてるんだけど、どこをどう歩いてるのか。
足音が反響してる。
やっぱり地下道かな。
でも、なんでこんなとこに入った?
蛭人間とかゾンビとか徘徊してるって噂なのに。
走り出した。走ってる。
まだ走ってる。ずっと走ってる。ひたすら走ってる。
水の音がしてる。ばしゃばしゃって。
水が溜まってるところなんだ。
今度はごぼごぼ言ってる。泳いでんの?
また、歩きだした。
明りだ。
ぼやっと明りが見えてる。
どこかわからない地下道の中。
止まった。立ち止まってる。
なかなか進めない感じ。
行っては戻り、後ろ向いたり、横向いたり、転んだり、大忙しな感じ。
獣の咆哮が聞こえる。
喉の奥から出て来るような声。すごい。
バチって火花散ってる。破裂音もする。
もしかしたら見えない何かと戦ってる?
あたしの動き止まった。息が荒い。
歩き出したっぽい。
ようやく光のあるところ来た。
カメラが自分の足下を写してる。
ゴリプロ傾いちゃったんだ。
もう地面しか見えなくなった。
映像揺れがひどくなって見てると酔っちゃいそう。
階段のぼってる。
画面が明るくなった。
地下道から外に出たんだ。
時々画面をかすめる影は自分のかな。
道をそれて草むらに入ったみたい。
また真っ暗になってどこをどう歩いているのか分からなくなった。
ずいぶん長い間、草の擦れる音や枝葉を踏む音してた。
急に地面が明るくなった。
整地された場所に出たみたい。
砂利が敷かれた道。
木の階段昇って板張りのところで止まった。
デッキの上にいる。
じっとしてる。足元が照らされた。
〈いらっしゃい〉
人の声。
カメラ下向いてるから声しかわからない。
声もくぐもってて分かりずらい。
〈ん? これカメラじゃん……〉
ブツ!
切れた。
◇
ここで動画は終わっていた。
朝ベッドで目覚めた時はアンダーだけ着けてた。
他の服はベッドの横にびちょびちょで脱ぎ捨ててあって、上着の胸のところが引き裂かれた感じになってた。
赤黒い血みたいなのも着いてたけど、あたしは怪我はしていなかった。
因みにゴリプロは脱いだ服のポケットに入ってた。
ノラネコみたく夜の街をうろうろして女の子にちょっかい出したり人に追っかけまわされたり。
あたし、無意識の中でこんなことしてたんだ。
これじゃあ閲覧注意動画だよ。
おばあちゃんを困らせてたのはこれなのかな?
フジミユはこんなのに毎回付き合ってくれたてたの?
それとも、これをしないように見守ってた?
分からない。
言えるのはあたしは何かをしようとしてた。
ただじっと部屋に閉じこもってたんじゃなかった。
無意識のあたしは何かを求めて彷徨ってた。
「答えは自分で見つけるしかない」
そのことをあたしはちゃんと知っていたのかもしれない。
あたしが直近で意識をなくしたのは辻沢に来て初めてのあのドナドナ会のあとだった。
あの時はあたしが猛烈にプッシュしてたけど結局はミヤミユからの誘いで集まった。
あの日はミヤミユとひさごで別れた後、一人で居酒屋で正体がなくなるまで飲んで、いつの間にかユカリさん宅に戻っていた。
すごくおぼろげだけど、それとはまったく別の、ずっとミヤミユが一緒にいてくれたという記憶がある。
今回もミヤミユは飲みに誘った。
断るとしつこいくらい理由を聞いて来た。
……。
ミヤミユに会いに行こう。
あのミヤミユはきっと傀儡子のことを知ってる。
(毎日2エピソード更新)
続きはこのあと21:10に公開します
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