表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第一部 ノタクロエのフィールドノート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/186

「辻沢ノーツ 46」(暗闇の参道)

 四ツ辻からの暗い山道をずいぶん長いこと歩いてようやく奥宮の参道前に辿り着いた。


まっすぐ伸びた針葉樹が並ぶ中に三本足の鳥居があった。


「傀儡子神社」の扁額の下をくぐり、ムラサキコさんに手を引かれて参道の石畳に歩み入る。


それまで空にあってあたしたちの道を仄かに照らしていた月が、針葉樹の天蓋に邪魔されてまったく見えなくなった。


おかげで石畳は明りのないトンネルのよう。


そしてこの石畳はひどく歩きづらかった。


まったく整備の手が入っていないのか、丸石を踏むとグラついたり滑ったりして転びそうになる。


懐中電灯の光に浮かび上がるのは参道の真ん中が窪んで傾斜のついた丸石の羅列ばかり。


ムラサキコさんとあたしはお互いによろけながら進めず、なかなか奥宮が見えてこない。


「ちょっと待って」


 と言ってムラサキコさんが立ち止まった。


 どうしましたと聞くと、


「懐中電灯がおかしいんです。電池は入れ替えてきたはずなのに」


 光が明らかに心もとない様子だった。


あたしの懐中電灯はまだ大丈夫そうだったので、もしもの時はこれ一本でなんとかしましょうと再び石畳を歩き始める。


ところが、あまり行かないうちに今度はあたしの懐中電灯がおかしくなった。


徐々に光の量が落ちて来て、2、3度点滅を繰り返したかと思うとそのままプッツリと切れてしまった。


残ったのはムラサキコさんの心もとない懐中電灯だけだ。


もしムラサキコさんのが消えたら、あたしたちは真っ暗闇の中で立ち往生することになる。


 光がなくなって目が見えなくなると、耳が過敏になって色んな音を拾うようになった。


自分のおぼつかない足音も大きく聞こえる。


手を繋いだムラサキコさんの息遣いだけが頼りだ。


森の中でヒュィーヒュィーと心細げに鳴いているのはどんな獣なんだろう。


そしてまたやぶの中を蠢く密やかな音。


先ほどの気配を右後ろの木立に感じる。


もし襲って来ても武器になるものはない。


あたしの手にある切れた懐中電灯ではものの役には立たないだろう。


今は身を固くして前を向くしかなかった。


 知らぬうちにムラサキコさんの手を強く引き寄せてしまったのかもしれない、ムラサキコさんが小さく「あっ」と声を上げて転んでしまった。


その拍子に、ムラサキコさんの懐中電灯が石畳の上を弾け飛んで遠くでガチッと言うなり光が消えて見えなくなった。


あたしはムラサキコさんに大丈夫ですかと声をかけ、返事も待たずに懐中電灯が消えた場所にずり寄った。


この光だけが頼りと後先を考えずに飛び出してしまったのだ。


瞼の裏に残った明かりの記憶を頼りに湿った固い地面を探したけど、真っ暗闇の中ではどこにあるか見当もつかなかった。


パニックになる寸前、あたしはスマホの存在を思い出してライトであたりを照らしてみた。


その光に照らし出されたのは苔に覆われた丸石の連続だった。


石と石との隙間は深い溝になっていて、そこに落ちたら見つけることなど無理そうだった。


しばらくの間、苔の上に這いつくばって探したけれど結局ムラサキコさんの懐中電灯は見つけることが出来なかった。


それでようやくあたしはムラサキコさんのことを気にする始末で、振り向いてムラサキコさんが倒れたあたりにスマホの光を翳したけれどムラサキコさんの姿はなかった。


「ムラサキコさん?」


 呼んだが返事がない。


耳を澄ましてみても、ムラサキコさんの息遣いさえ聞こえない。


「ムラサキコさん?」


 もう一度呼びかけて見た。やはり返事はなかった。


スマホが照らす範囲は狭く、明かりの先はまったくの闇が広がっている。


咄嗟に森の中の気配のことが脳裏をよぎったけれど今はそのことを考えるのはやめにした。


それとムラサキコさんを結びつけることが恐ろしかったからだ。


 その場でじっとしていると静寂がミシミシと音をたてて背中に覆いかぶさって来る気がして、あたしは再びパニックになりそうになった。


一人でここに居続けるのにはこれ以上耐えられそうにない。


誰かの助けが欲しかった。


 その時、目の端になにかが動いた気がしてそちらを見ると、暗闇の先がトンネルの出口のように明るくなっていて、そこで人影が手を振っているのだった。


ムラサキコさん? いつの間にあんなに先に行ってしまったのか。


それに応えてあたしもスマホを高く振ると、その人影も応じてくれたようだった。


そちらに向かってあたしが進み出すと人影は見えなくなっていた。


あたしは焦り気味の急ぎ足で進むけれど、足場が悪いしスマホの明りではおぼつかないため出口になかなか辿りつかない。


やっとのことで人影が見えた場所に辿りつくと、急に参道の針葉樹が開け、眼下に月の光で白く照らされた窪地が広がっていた。


石畳はそのまま石段になって窪地の底に溜まった靄に伸びていて、その中に陰気な建物が黒々と蹲っている。


それが目指して来た奥宮、傀儡子神社のようだった。

(毎日2エピソード更新)


おもしろい、続きを読みたいと思ったら

ブクマ・★・いいね・一言感想で応援いただけると嬉しいです٩(*´꒳`*)۶


この続きは明日21:00公開です


よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾


たけりゅぬ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ