「辻沢ノーツ 45」(傀儡子神社へ)
ムラサキコさんに電話して傀儡子神社への案内をお願いしてみた。
町長室秘書のエリさんに傀儡子について聞いた時に勧めてくれたからだ。
「奥宮ですか? 何もありませんよ」
それでもと言うと、いつもの時間にならと約束していただけた。
ケサさんのお葬式以来の四ツ辻だ。
これまでのインタビューをまとめたものを携えて行くことにした。ケサさんに渡せなかった分も一緒に。
〈次は四ツ辻公民館です。わがちをふふめくぐつらや、地獄の門前、四ツ辻へようこそ〉
(ゴリゴリーン)
公民館の玄関に入ると、既に一組の靴がそろえてあった。ムラサキコさんを待たせてしまったようだ。
「こんばんは。遅くなって申し訳ございませんでした」
約束の時間から30分も過ぎていたのだった。
「道が悪かったでしょう?」
麓の大門総合スポーツ公園までは定刻通りだったのに四ツ辻に着くのが遅れた。
それは山道の至る所で水が出ていて、そこをバスが通る度にまるで瀬踏みのようにしてゆっくりと通過していたからだった。
「山から水が絞り出されてるんです」
ケサさんのお通夜以来、雨はなかったはずだけど、
「ああなると、半月は続きます」
四ツ辻のある西山一帯は、もともと水を多く含んで長雨の後などは全体が膨らんでいるかのようになるのだという。
公民館の玄関でムラサキコさんが懐中電灯を渡してくれた。
玄関を出ると辺りはすでに暗くなっていて、
「山道を行くのですよね」
と聞くとムラサキコさんはあたしの不安を察したらしく、
「大丈夫、行き慣れてますから」
と答えた。
あたしはムラサキコさんについて歩き出した。
公民館前に敷かれた砂利を踏む音がやけに大きく聞こえた。
四ツ辻を出てしばらくは街灯のある舗装道を歩いた。
途中、わき道にそれて山道に入ってしばらく行くと、「奥宮」と書かれた鳥居があった。
その鳥居は柱が3本あって真ん中の柱は全体を支えるように斜めについていた。
「ここから参詣道です。あと1時間くらいかかります」
「そんなに?」
「奥宮様ですから」
これから一時間もと思ったら帰りたくなったけれど、自分から頼んだのにムラサキコさんにやっぱり引き返しますとは言えなかった。
鳥居から先はまったく明りのない山道になった。
整備されていないらしく、ところどころ木の根っこがむき出しになっていて、不規則な階段のようで歩きにくい。
しかも例の水が至る所で道を浸していて、流れに耐えて歩くから体力が追い付かない。
そうでないところでも、むき出しの土は粘土質のためによく滑り、あたしは何度も転びそうになった。
それでも、幅の狭い道をなんとか歩けているのは、先導するムラサキコさんがあたしの足取りに目いっぱい気を配っていてくれたからだった。
あたしがよろけそうになると腕を掴んで助けてくれ、足を踏み外しそうになると体を張って支えてくれる。
どれだけムラサキコさんに助けられたか知れなかった。
行き慣れていると言ってもムラサキコさんはすでに50才を過ぎているはずだし、体格だってむしろあたしより華奢なくらいだ。
ムラサキコさんにすごい迷惑を掛けている。
あたしはここに来てようやく案内してほしいと言ったことを後悔していた。
すでに小一時間は歩いて来たはずだ。暗闇の山中にも慣れてきた。
梢を透かして見える月、尾根下の渓流の音、風に揺れる樹木の軋み、下草に蠢く虫たちの鳴き声。
今はすべてを感じることができる。
そんな中、先ほどから山側のクマザサの茂みをあたしたちに並行するように何かが付いて来ている。
熊や猪かと言えば、そんなに大きいものでもなさそうだ。
森の中は暗闇だから当然姿は見えない。
かといって、もしそれが禍々しいものだったら嫌だからあえて懐中電灯を向けようとは思わない。
いつからだったか。
あたしが足の痛みを訴えたために、明るければとても見晴らしがよいのよと言われた広場で5分ほど休みをとった後くらいからだ。
ムラサキコさんに言おうかどうしようか迷っているうちにそれと同行することになってしまったのだった。
突然、その気配が無くなった。
目の前を見ると山道が切れ針葉樹の木立の間に一本の石畳が伸びていた。
「この先に奥宮があります」
そう言うムラサキコさんは肩で息をしていた。
やっぱりあたしが思う以上にムラサキコさんに負担をかけていたのだと責任を感じた。
(毎日2エピソード更新)
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