表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第一部 ノタクロエのフィールドノート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/50

「辻沢ノーツ 4」(事前調査はバモスくんに乗って)

 今日から土日を利用しての事前調査だ。


メンバーは、あたしとミヤミユ、なんでかサキも一緒だ。


朝早くに大学の校門前に集合して、鞠野フスキの車で辻沢に向かっている。


今日は辻沢女子高校と町役場へ行く予定。キーマンへのご挨拶回りだ。


 この車、寒いし、うるさいし、おしり痛い。


なんなのこの車。運転席の前に一枚板がついてるだけで覆いがないトラックって。


ねぼけたコアラみたいとか言ってる場合じゃなかった。


ドアまでなくてパイプの手すりだけって、落ちるでしょ、いつか。これでちゃんと目的地に着けるの?


この吹きさらしじゃその前に凍死するよ。


ミヤミユは前の助手席で寒そうにしてるし、隣のサキったらクチビル紫色にして震えながらスマホいじってる。


 鞠野先生に出発前、6月だって言ってもまだ気温は低めだから、


「幌なしですか?」


 って聞いたら、このホンダ・バモスTN360型は強力なヒーター付いてるから大丈夫って。


けど、もう無理。耐えらんない。


それにちゃんとした格好して来てねって言われたから、みんな入学式以来の薄い春用スーツだし。


悪目立ちしてないか? あたしたち。


「先生。やっぱ寒いです」


 あたしの必死な声も風圧で飛んでいきそう。


「あー、そうか。後ろは風が直に来るから寒かったか。次のコンビニで幌かけるよ」




 結局、あたしたちは鞠野先生のオファーを受けて3人一緒で調査に行くことになった。


3人になったのはサキが最後まで決まらなくて、あたしたちに便乗ってことになったから。


フィールドは辻沢。例のヴァンパイア祭の町。


これからインフォーマー=協力者にご挨拶ついでに事前調査ってところ。


鞠野先生が、最初は一緒に行ってあげるからって、バモスくんで連れてきてもらってるけど、あたしらは完全にドナドナ気分。フィールドに入る前からウツ状態。


 コンビニに着いたらこんな時期におでんが売ってて、鞠野先生が珍しーねーって言って買ってくれた。


鞠野先生が幌を掛けるのを、イートインで熱いおでんを食べながら待っていると、先生が店に入って来てあたしの隣の席に腰かけた。


「手間取ったよ。三年ぶりの幌かけだった」


 と誰に言うでもなくしゃべり出す。


雨の日とかどうしてたんだろと思って何気に鞠野先生を見ると、


「不安かい?」


 と唐突に人の心をえぐってきた。


 実際不安しかない。最初は誰でも不安、フィールドに入ったら案外何とかなるっていうのなら、ゼミの歓送会で先輩からさんざん聞かされてますけど。


「分かるよ。僕もそうだった」


「先生が?」


「ああ、僕も最初はフィールドが決められなくってね。同期のヤツと一緒にフィールドに入った口さ」


「同期の方とですか?」


「四宮浩太郎っていう」


 あ、その名前知ってる。基本文献の『辻沢ノート』書いた人。


じゃあ、先生の最初のフィールドって……。


「辻沢だよ。初めは辻沢なんて知らなくて、指導教官に半ば強制的に連れてゆかれた。


入ったはいいけど、初めのうちは何から手を付けたらいいかまったく分からなかったよね。


見えないって言うのかな。そんな感じだった」


 そうなんだ。その時の鞠野先生のメンタルが今のあたしと同じだったとは思えないけど、なんかほっとする。


「今日お会いするのはその時僕たちがお世話になった方なんだよ。だから心配しなくていい。とてもよくしてくれる」


 その方というのは辻沢女子高等学校の教頭先生で、郷土史家でもあって、『辻沢ノート』の歴史のパートはこの方の協力があったのだそう。


それを聞いてあたしは、『辻沢ノート』の「辻沢は江戸の初期から遊里として栄え、多くの遊女、芸妓らの記憶を刻んできた土地である」という一節を思い出した。


あたしは遊里のことは全然知らなかったけど、報告はとても興味深かく読んだ。


だって、「あなたの御先祖様には遊女さんがいるのよ」って、おばあちゃんが教えてくれたことがあったから。


去年の11月に亡くなったおばあちゃんが。


「さっそく教頭先生からメールが来たよ。今日は何時に着きますかって」


 鞠野先生がガラケーを見ながら言った。


「で、辻女入りは何時ですか?」


「そうだな。途中でお昼食べても14時ころだけど、15時って言っておこう」


 これから3時間?! バモスくん遅すぎ。


(毎日2エピソード更新)

続き読みたいと思ったら、★・ブクマ・一言感想・いいねで応援お願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ