「辻沢ノーツ 36」(ケサさんの語り方)
四ツ辻に前回の調査報告書を届けに行くことにした。
いつもより早い時間だったのでムラサキコさんに連絡したら、話を通しておくと言っていただいたので早速出かけた。
辻バスには、夏休みだからか9時前なのに小学男子たちがたくさん乗ってる。
サッカーの試合かなんかかな。
みんな横一列に座って足をぶらぶらさせてて可愛い。
「辻沢の都市伝説その1、言える人?」
「はーい。先祖にヴァンパイアがいるー」
「「「あるあるあるー」」」
「オレのばーちゃんのばーちゃんのばーちゃん、ホントにヴァンパイアだって」
「オレんちなんか、おばさんがヴァンパイアだった。この間殺された」
辻沢あるあるその1。結構えぐいこと普通にある。
「おばさんは先祖じゃないよ。ダイキ」
一番端に座った年長そうな子が言う。
「そっか。じゃあ、取り消し」
「その2」
「えっとねー、地下道は全部青墓とつながってる」
「こわーい。地下道歩けねーじゃん」
「ママに地下道には行くなって言われてる。オレ」
「オレもー」
「オレ、この間ニーニーに連れてってもらった。だから怖くなかった」
「うそだー」
「地下道って、水だらけだよ」
「入れないよ」
「ほんとだもん。ニーニーすごいんだもん」
半泣き状態。可愛い。
「すげーじゃん、ショーとこの兄ちゃん」
年長そうな子が感心して見せた。この子エライ。
「その3はオレね。……なんだっけ、忘れた」
「「「じゃあ、オレオレオレ」」」
年長の子が、
「オレ言ってないから、オレ。えっと」
小学男子みんな黙って聞いてる。
「人が燃えるのは傀儡子のしわざ」
隣の子がおずおずと、
「オレのおかあさんも言ってた。宮木野さんが怒ってるって」
小学男子たちは山道に入る手前の大門総合スポーツ公園で降りて行った。
それから30分、運転手さんの機嫌がわるいのか、いつになく右に左に大揺れに揺られながらの山道で、さすがに酔った。
うぇ。超やばい。
〈次は四ツ辻公民館です。わがちをふふめくぐつらや、地獄の門前、四ツ辻へようこそ〉
なんとかこらえた。いつものアナウンス、久しぶりな感じ。
(ゴリゴリーン)
公民館に入ると、靴が一組揃えてあった。頼んだ方がもう待っていてくださっているらしい。
「こんにちは」
「おかえり」
座卓を前に腰を下ろしこちらに笑顔を見せているのは、ケサさんだった。
いつもはムラサキコさんと一緒なのに、おひとりで来たのかな。
冷房はついてないのに部屋の中がひんやりとしている。
「ケサさん、体の調子はいかがですか? お迎えに行くべきでした。申し訳ございませんでした」
「いいよ。あたしらは身体なんか何とでもなる。それより聞きたいんだろ、傀儡子の話」
ケサさんの話し方がいつもよりはきはきしている。この間のインタビューが別人のようだ。
「傀儡子の話ですか?」
「違ったかい?」
「いいえ、思ってもみなかったから。でも、どうしてあたしが傀儡子の話を聞きに来ると?」
「まあ、この間の話に仕込んでおいたからさ。じきに連絡してくると思ってたよ」
調査報告書を渡すとムラサキコさんには言ったが、今日はホントはケサさんの話を聞くために来たようなものだった。
ケサさんの4日間のインタビューをまとめるうち、ひっかかる部分がたくさんあることに気が付いた。
何度も何度も録音を聞き直して何がおかしいのか突き止めようとした。
最初はケサさんの記憶違いによる混乱なのかと思った。
でも、つじつまは合ってる。
混乱でないとするとあたしが感じるこのもやもやは何だろうと気になってどうしようもなくなった。
はっきりとは言葉には出来ないけど、その中に重要なヒントが隠されているような気がしてならなかったのだ。
それで今回はケサさん名指しで来ていただいたのだった。それがケサさんの思惑のうちだったとは。
「よろしいですか?」
「いいさ。ただし、写真はなし。アイスィーなんとかもだめだよ」
デジカメもICレコーダーも青墓に置いて来たままだから、持ってこれたのはフィールドノートの新しいのだけ。
「メモは採ってもいいですか?」
「ダメって言っても、どうせ後で思い出して書くんだろ。あの子もそうだったよ。日記つけてたらしい」
「『日記』?」
「ずいぶん前になるかね。ここに足しげく通ってはヴァンパイアのことを聞きたがった若いのがいてさ」
「その方って四宮浩太郎さんですか?」
「死んだ人間の名前は出さないでおくれよ」
「すみません」
このインタビューは学術書や演習のレポートとして人目に触れる機会があるがよいかとケサさんに聞いた。
「あの子もそれを確認したよ。でも断った。沢山の人に知らせたくて話すんじゃない。
伝えるべき人に伝えるために話すのだと言って、それでも聞くかと質した」
「その方はどうされたのですか?」
「ちょっと戸惑った様子だったが、約束は守ると言ってくれた」
発表の機会が与えられなかった場合のことなど考えもしなかった。
話が聞けたならそれはレポートに直結させる気でいたから。
こちらの興味や目的のためでなく、インタビュイーの欲求を突き付けられてそれでも調査を続ける。
その時はまな板の鯉にならなければいけない。
その先にあるのはフィールドワークとは別次元のもの。
ユウから「スレイヤー・R」に誘われた時みたいに。
「あんたに話すのはそれを伝えられる資格があんたにあるからだよ」
と言って微笑んだ。
「私に資格が? どういうことですか?」
ケサさんは座卓の上のあたしの手に触れた。
ケサさんの手のぬくもりが伝わって来る。
それは、おばあちゃんの手のぬくもりと一緒だった。
夜毎の悪夢に目覚めた朝、あたしを胸に抱いて優しい目で見つめながら頬をそっとさすってくれた、あの手のぬくもりと。
「これから話すのが、あんた自身の話だからだ」
「あたし自身の話?」
ケサさんがあたしの手を摩ってくれている。
それを見つめるうち、あたしはゆっくりと意識の底に沈んでいくような気がした。
やがてあたしはいつも見るあの夢の地平に降り立ったのだった。
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次回から「幕間」が始まります。ケサさんが語る『夕霧物語』へ。
(毎日2エピソード更新)
次回『夕霧物語』「夕霧太夫のゆびきりげんまん」は、明日(11/15)22時公開です
今週の土日は『夕霧物語』を一挙公開。
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この続きは明日21:00公開です
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