「辻沢ノーツ 32」(辻沢の通過儀礼について)
サキに部屋から追い出されたので、フロントで自分の部屋を確認すると、
「キャンセルされてます」
と言われた。
昨日予約したはずと食い下がると、裏から昨日応対した人が出てきて、
「予約された後すぐご自分でキャンセルしに戻っていらっしゃいましたよね」
と不審そうな目をして言った。
「荷物は?」
「持って行かれましたよ」
とも。
そうか。なんの目的かは分からないけどユウがあたしの名前を騙ったんだ。
「それと、荷物を引き取られた後に、お客様のお知り合いという方が来られてメモを残されて行かれました。必ず戻って来るとおっしゃいまして」
と2つに折られたホテルのロゴのあるメモ用紙を差し出した。
それを受け取り中を見ると、
「バイパスのヤオマンホテル、905号室に来て。ミユウ」
とあった。よかった。ミヤミユ、無事だったんだ。
すぐにミヤミユに会いに行こう。
ミヤミユに会って、ユウと地下道に降りて何をしたのか聞いてみよう。
そうすれば全部分かるんじゃないか。
どうしてユウがあたしの荷物を持ち去ったかとか、スレイヤー・Rの後どうしたのかとかも。
トモカク、今あたしにはミヤミユに会いに行くことぐらいしかできない。
なぜなら、あたしの持ち物はデニムのポケットに入っていたゴリゴリカード一枚だけだから。
スマホもお財布も、調査道具一式全部手元にない。それに何だか体中から変な匂いする。
ロビー脇のおトイレに入って鏡の前に立つ。
着ていたパーカーは汚泥なのか化け物の体液なのか、元の色が分からないくらいに汚れていた。
髪にも何かわからない固形物がこびりついている。
こんな格好をしてたなんて。鏡の中の自分を見て悲しくなった。
髪を洗う。
シャンプー代わりに緑の液体石鹸を使ったせいで頭がトイレ臭くなった。
パーカーで拭こうと脱いだけれど、こんなの使ったらよけい汚れそうなので、手拭き用のペーパータオルを大量に使って拭いた。
脱いだパーカーは用具入れに放り込んだ。
下のTシャツは辛うじて汚れてなかったのがせめてもの救い。
◇
駅前は、昨日ほどの賑わいではなかったけれど、サバゲースタイルの人がいた。
寸劇さんやサダムさん、サーリフくんをその中に探した。
短い間だったけど、戦いの中で寸劇さんたちとは良い関係が築けた気がしていたから。
壊滅したらしいけど連絡が取れないだけなら、もう一度会いたいと思った。
考えてしまうのは、やっぱりユウのこと。
裏での行動はいい感じはしないけど、ユウを突き放せないでいるのは、あたしにそっくりということ以上に、ユウに寄せてる信頼が大きいからだと思う。
ユウは他の人とは全然違うという感覚。
「バイパス大曲交差点まで」
(ゴリゴリーン)
バイパス線に乗った。
この路線は駅前から宮木野神社の前を通り辻沢バイパスに入る。
バイパスに入ると一気に南下して、雄蛇ヶ池手前で東に大きく曲がって、N市の方向へ抜ける。
その曲がり端にミヤミユの指定したホテルがある。
辻沢駅で一緒に乗った制服のJKが二人、あたしの前の席で面白そうな話をしてる。
鞠野先生から、人の話に無駄話なんて一つもないよって教わってるから、こういう時でも聞き耳を立てちゃう。
失礼なのは分かっているけど、学術的好奇心は止められないのだ。
「マナミんとこって双子だったよね」
「うん」
「辻沢じゃさ、女子の双子は5才の時に前歯を折るって風習あるってじゃない?」
「辻沢の通過儀礼ねw」
「そうそれ。マナミはしなかった?」
「いきなりだね。なんでそんなこと知りたい?」
「公共のレポート『私の住んでる町調査』。辻沢のこと知らないから」
公共? 現社が名前変わったんだっけ。
「エリナは転入勢だもんね。で何調べてんの?」
「辻沢のヴァンパイア伝承について」
「おー、核心つくね。じゃあ、教えてあげる。したよ。よく覚えてないけど。因みに前歯じゃなくて犬歯ね」
「でもマナミ犬歯あるよね」
エリナさんが指でマナミさんの口の端をさわろうとするのを手で避けて、
「折るのは乳歯の時だから」
「いたかった?」
「先っぽだけだから」
「そっか。で、なんで?」
「ヴァンパイアにならないように」
「やっぱそうなん? でも、どうして双子の女子だけなんだろ。男だって、双子じゃなくたってよくない?」
「それな」
「おもうっしょ、フツー」
「おばーちゃんが言ってたんだけど、宮木野の子孫に、女の双子が生まれるとどっちかがヴァンパイアってのが続いたんだって」
「なるほど、そういうこと」
「伝承ではね」
「沢山いるよね、双子。辻沢来てびっくりした。カリナ先輩とカイラ先輩とか」
「いるいる。マリナちゃんとカリナちゃんもそうだし、中根姉妹も」
「みんな折ったのかな」
「折ってると思うよ。辻沢の双子は」
「折らなくてヴァンパイアになった子っているのかな?」
「いるよ。あたし知ってる」
「うっそ! マジで?」
「ウソに決まってるでしょ。迷信信じんなよ」
「もー、マナミ!」
話聞いてたら、歯が痛くなってきた。
「それはそうと、何か臭くない?」
「あ、さっきからあたしも」
ひょっとして、あたし臭い? 席移動しよっと。
バイパスに入って辻バスはスピードを上げた。
一番後ろの席に座って窓を開けて外気を取り入れる。
温かい風と一緒に夏の稲穂の匂いが吹き込んで来た。
(毎日2エピソード更新)
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