「辻沢ノーツ 31」(死せるユウギリ)
スレイヤー・Rの朝、気付いたらヤオマン・インにいてサキからミヤミユに何かしたろうと言われた。
あたしは申し開きのためユウのことを口走ってしまったが、そのおかげでサキは確認だけは取ってくれることになった。
サキは窓際の机につくと、モバイルPCの蓋を開いてモニターに真っ黒な背景に赤文字のサイトを表示させた。
しばらくその画面を見ながらカチャカチャしてて、
「これだね。獲得ポイントもそうとう貯めこんでる」
とパソコンを持って戻って来た。
モニター画面に一覧表が映し出されていて、真ん中ぐらいの欄に「砂漠の友だち旅団」とあった。
「多分そうだと思う。この人達に連絡したら証言してくれるハズ」
「それはダメ」
「何で? Contactってアイコン、これクリックすれば連絡できるでしょ?」
「そうじゃない」
「じゃあ、何で?」
「全滅してる。全滅したパーティーとは連絡取れない」
欄の右端に太文字で「Wiped out(壊滅)」とあった。ユウも一緒?
「メンバー全員?」
「3人とも。マホメット3世、サダム、サーリフ。ユーザー名はノタが言った通りか」
3人? ユウは逃げた? ちがうインチキして入ったから記録がないんだ。
「もう削除されてるかもしれないけど」
そう言うとサキはパソコンの画面で別のサイトを開いて「砂漠の友だち旅団」を検索した。
それは動画サイトらしかった。
「ユーチューブ?」
「これはゴリゴリ動画。『スレイヤー・R』専用の会員制動画投稿サイト。
……あるね。なるほど猛者だ。めぼしい祭にはほとんど参加してる。
幹事のマホメット3世は元自衛官か。昨日の日付のは。あった。これだ」
動画は画質が悪い上に暗くてすごく見づらかった。
内容は暗い森の中で2人の人間が刀を振り回してるのが延々と続く映像だった。
最後まで見たけど全滅した様子はなかった。
「この大きい人が寸劇さんで、こっちの小柄で髭の人がサダムさん。サーリフくんは映ってなさそうだけど」
「そのサーリフってのがゴリプロ付けてたんだな」
「ゴリプロ?」
サキが目玉のおやじのような黒いガジェットを見せてくれた。
「これを体につけて戦闘を動画で記録する。いわゆるアクションカメラ。スーパーヤオマンで売ってる」
これで撮れるんだ。
でも、この動画は寸劇さんたちしか映ってなくって、敵の改・ドラキュラとかカーミラ・亜種とかがいない。
「これは準備体操か何かなのかな?」
「いや、多分蛭人間と戦ってるんだと思う。
動画になると何故か改・ドラキュラとカーミラ・亜種は映んなくなって、こんな間の抜けた映像になる。
運営側でオブジェクトフィルターでも掛けてるんだと思うけど、どういう技術かは分からない」
カメラがどっちへ振られても、ユウもあたしも映っていなかった。あたしたちと合流する前なのかな。
「ノタのパーティー名は何?」
「パーティー名?」
「参戦するには、パーティーに登録するか傭兵にならないと。あんたなんか傭兵ってがらじゃないから、パーティーに登録してもらったんでしょ」
えっと、ユウはなんて言ってたっけ。
(「パーティー名はアワノナルト、あたしはユウギリ、この子はイザエモン」)
「思い出した。アワノナルト。その子はユウギリって言ってた。あたしのことはイザエモンだって」
「アワノナルトのユウギリ? マジか? それが本当ならあんたは死人と一緒だったってことだよ」
どういうこと?
「今年の春、突然現れたパーティーが猛烈な勢いでポイントをゲットし始めた」
サキがアワノナルトについて解説してくれた。
そのパーティーはメンバーが女子2人だっていうこと以外に詳しい情報はなく、彼女たちを見たとかフィールドで会ったという者も現れなかった。
しかも動画をアップしない方針だったらしく、ひたすらポイント獲得数だけが上昇してゆくからみんなの注目が集まって、正体不明の最強女子パーティーと話題になった。
その後も勢いは止まらず、今までだれ一人満たせなかった第1ステージクリアの条件を半月で充足するってなったある日、突然全滅した。
多くは荒しと見做されBANされたんだろうという見方だったが、運営の策謀にハマったんじゃないかって噂されもした。
「その日は青墓の杜が敵であふれかえったと言うからね」
「運営の策謀?」
「上のステージに行かれたらまずいから、意図的に抹殺された」
抹殺って。
「そして、その女子パーティーの名がアワノナルト、幹事がユウギリ」
昨晩の猛烈な攻勢を思い出した。寸劇さんもこんな事は初めてだって言ってた。
もしかしたらユウがいたことと関係ある?
「ヒットしたよ。でも、アワノナルトの情報はブロックされたままだ。ちなみにどうやって参戦した? 参加資格のカードはどうやって取得した?」
「そんなのなかった。ズルしたんだよ。別のほうから青墓の杜に入って」
「別のほう? あの厳重な入場規制に穴なんてあるわけ……」
「雄蛇ヶ池公園の南門側」
「それって青墓の東北辺だよね。
あっこから入ったって? ツリだろ?
あの辺りはあちこちに流砂があって、青墓を熟知している人でも足を踏み入れない場所だよ」
「でも、ユウについて行ったら簡単に集会場に潜り込めた」
サキが突然立ち上がり、
「もういい加減にしてよ。あんたの話は嘘だらけ。
死人と一緒だったとか流砂の上を歩いて来たとか。
ほら、とっととここから出てって」
と、あたしを乱暴にドアのほうに引き摺って行こうとする。
「ミヤミユはどうするの? いなくなったんじゃないの?」
「ウチが一人で探す、出てって!」
痛いよ。服が脱げちゃうじゃん。
「ここはあたしの部屋だし」
「は? ここはウチのベースキャンプ」
「だって、あたしはステイ先から追い出されてここに泊まってて」
「ステイ先? 何それ」
「みんな、それぞれホームステイすることになったでしょ」
「はあ? ウチはずっとここだし、ミユウはバイパス沿いのホテル。あんたは何だって?」
「あたしはユカリさん宅に」
「それって最初に寄った洋館風の屋敷のことだろ。あんな豪華なステイ先なんてあるわけないだろ笑」
「だってあそこは四宮浩太郎の元奥さんが……」
「あー、いらつく。あんたのホラ話に付き合ってる暇ないの」
なんで信じてくれないの?
いったいどうなってる?
世界がおかしくなった?
それともあたしがもともとおかしいの?
手ぶらのまま部屋から放り出された。
ドアを叩こうとしたら、斜め向かいの部屋のドアから人が覗いていた。
あたしはあきらめて、フロントで自分の部屋の鍵をもらうため、サキの部屋の前から立ち去ったのだった。
(毎日2エピソード更新)
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