「辻沢ノーツ 30」(サキの疑惑)
「辻沢ノーツ 30」(サキの疑惑)
目覚めると床に頭をつけてうつ伏せになっていた。絨毯に薄っすらと砂が浮いているのが見える。
それがベッドの下に続いていて、向こう側に人の踵だけが見えていた。
頭を上げて見回すと、そこはヤオマン・インの部屋のようだった。ユウも寸劇さんの姿もなく、別の人がベッドに腰掛けてTVを観ていた。
「サキ?」
「起きたか、ノタ」
部屋にいたのはサキだった。
あたしは両手を床について上体を起こし、すぐ側の壁にもたれかかった。二日酔いみたいに頭がガンガンする。
「どうしてサキが?」
「救護センターに転がってたのをウチが連れ帰った」
「今は?」
「絶賛出玉祭の朝だよ」
青墓の死闘を生き延びて、ユウが寸劇さんと傀儡子がどうのって話してて……。
そうだ、傀儡子に会わなきゃだったんだ。
こんなことしてられない。青墓に戻らなきゃ。
あたしの荷物を探したが見当たらなかった。
「リュックは? 調査道具入ってたの。スマホとかお財布も」
「知らない。しかし、ノタが青墓にいるとはね」
「サキも青墓にいたの?」
「ウチのフィールドだから。『スレイヤー・R』が調査対象」
事前調査やドナドナ会の時、サキは怪我をしていた。
「それであんなに怪我をしてたんだ」
「何度も死にそうになったけどね」
――死にそうになった。
昨晩の戦闘の前なら大げさだと思ったろう。
でも今はすんなり受け入れられた。
改・ドラキュラやカーミラ・亜種の猛攻の中、あたしはなんとか生き延びたけれど、多分あれは奇跡や僥倖だった。
一つ間違えたら死体安置所に転がってたかも知れない。
「サキはずっと一人で参戦してたの?」
「いや、知り合いと」
「誰と?」
「教えない」
そっけな。まだドナドナ会引きずってる?
ひさごで別れて以来、あたしからミヤミユに連絡をしていなかった。
ミヤミユからも連絡来なかったから、あたしは二人にハブられたと思ってた。
サキはTVのほうに向きなおって画面を観はじめている。
あたしと話すつもりはないみたいだけど、夏の間ハブられっぱなしは困るから、無理にでも話しかける。
「ミヤミユは元気?」
それを聞いたサキが鋭い目でこっちを見返した。
「それはウチが聞きたい」
「何を?」
「とぼけないでくれる? ひさごで飲んでウチがミユウと別れてから、音信不通」
「ウソ」
「最後に一緒にいたのあんたじゃん。なんか知ってるでしょ?」
あのあと一人で飲んで、気付いたら部屋にいた。
「知らないよ」
「じゃあ、これはなんなの?」
サキはベッドを立ってこっちに来て、サキのスマホをあたしに見せた。
画面に写真が表示されていて、そこに黄色いパーカー姿のミヤミユと白いパーカー姿の人が夜の街を連れだって歩いていた。
「これあんたとミユウだろ? あのあと街中ぶらぶらしてたら見付けたんだよね」
サキはタイムスタンプを表示させてあたしに見せた。
それはドナドナ会の日付だった。
あの日、あたしは一人で飲んでたつもりだったけど、ぼんやりとミヤミユと一緒の記憶もある。
「あとついて行ったら町外れの地下道に降りて行った。あんたミユウになんかしたろ」
記憶がなくなるまで飲みはしたけれど、誓って地下道になんて入ってない。
「あたし知らない。あたしは何もしてない」
「お、動揺したな。やっぱりナンカしたんだ」
「してないって。これはあたしじゃない」
「はあ? どう見てもあんたしょ」
たしかにあたしの格好だけど、でもこれは違う。
「いるの。あたしにそっくりな子が。サキ、青墓にいたんでしょ? あたしの側にいなかった? 格好も顔もあたしにそっくりな子が」
ついユウのことを口にしてしまった。
「ノタにそっくりな子? 知らないね。あんただけだった」
「寸劇さん、砂漠の友だち旅団のマホメット3世さんとか、サダムさんやサーリフくんならその子の事知ってる。一緒に戦ったから」
「ウチは石油王のパーティーなんて見たことないね」
「石油王じゃないよ。その人達日本人なの、ホントは。名前だけアラブっぽくて。朝、救護センターに行くって言ってて、凄い怪我してたけど、あたしを連れて行ってくれたはず」
サキはあたしの顔を疑わしげに見ていたが、思い当たるフシがあったらしく、
「そんなに言うなら調べてやるよ。ウソなら承知しない」
サキは窓際のテーブルに行ってモバイルパソコンを開いた。
(毎日2エピソード更新)
続き読みたいと思ったら、★・ブクマ・一言感想・いいねで応援お願いします。




