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辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第一部 ノタクロエのフィールドノート

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22/62

「辻沢ノーツ 22」(物語が生れる時)

 調査初めて数日、バスに揺られるこの山道も慣れて来た。


最初はカーブごとに、うぇってしてたけども。


それに、今は窓の外の森は薄暗く谷の深さがわからない分、怖さも半減している。


〈次は四ツ辻公民館です。わがちをふふめくぐつらや、地獄の門前、四ツ辻へようこそ〉


(ゴリゴリーン)


 今日のインタビューは夕方6時半から。


やっぱり30分じゃ喋りきれないと皆さんのほうから要望があって、一日の農作業が終わってからになったのだ。


 公民館の玄関を入ると、すでに明るい笑い声が聞こえていて、インフォーマーの方たちが集まってくれていた。


今日はケサさんという最年長の方も来ていただいている。


「調査にご協力いただきましてありがとうございます」


 とお礼を言うと、


「あたしら、の、からだは、いくら、もゆうづ、き、く」


 とケサさんが、たどたどとしい言葉で言った。


「そうだ、あたしらだって農作業ばっかりやってるわけじゃないよ。


疲れてても楽しいことは楽しい。


よく言いうでしょ、ケーキは……、何だっけ?」


 皆さんの中で一番小柄なミヨコさんが言うと、


「別腹」


 タヅコさんが補填した。


 今日からタヅコさんの番。とても大きな声ではっきりと物を言うタイプの方だ。何にでも物怖じすることなくこのグループのリーダー的存在だ。


最初のムラサキコさんは二日目から、昨日までのミヨコさんは全ておひとりでインタビューさせていただいた。けれどタヅコさんはみなさんと一緒がいいと言われて、ムラサキコさん、ジュンコさん、ミヨコさん、ケサさんも同席という形になった。


「これまでどのような人生でしたか?」


 タヅコさんはニコっと笑って皆さんの顔をぐるっと見回すと、コホンと大げさに咳払いをしてから話を始めた。


これまでお話いただいた方たちは、一つのエピソードが終わると、あたしに次は何を話せばいいかと聞いて来た。


あたしはその都度、人生の出産とか、死別とかを挙げて話の引き出しを開きやすくしてきた。


もちろん鞠野先生に教わったやり方だ。


ところがタヅコさんのお話の仕方はまったく違っていた。


タヅコさんのお話はよどみなく続き、生まれてから結婚までを1時間半かけて話し続けたのだ。


細かな日付や地名や人名まですべてはっきりと覚えていらして、まるで伝記を朗読するようだった。


時々、他のインフォーマーを話に登場させて、その方を話に引き込もうとしているのには驚いた。


だから皆さん、タヅコさんのお話を感情を露わにして楽しんでいた。

 

きっと昔はこういう人が語り部となって村の由来や歴史を人々に話して聞かせたのじゃなかったろうか。


そう思わせるタヅコさんのお話だった。


 これまで3名の話を聞いてきたけど(タヅコさんは途中まで)、あたしのテーマの傀儡子の家系に関することはまったく出て来ていない。


このまま行くと、四ツ辻では皆さんのライフ・ヒストリーの報告書を作成することになるかもしれない。


でも、皆さんのお話からあたしもすごく勇気を頂いたし心をたくさん揺さぶられた。


精一杯生きるって大切なことだと改めて気付かされもした。


だから、たとえ目的にそぐわなかったとしても、いい出会いをしたと鞠野先生なら言ってくれると思う。


 インタビューを終えて帰宿できたのは、9時半を過ぎていた。

 

遅いお夕食とお風呂を頂いて部屋に戻ると、ミヤミユから知らせ来た。


ドナドナーズ[ミヤ(女子会、明日6時に駅前通りのひさごで)

 

                        クロ(たのしみ)

 

       サキ(り)                    ]


明日は久しぶりのお休み。ドナドナ会できるのよかった。

(毎日2エピソード更新)

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