「辻沢ノーツ 19」(本番の夏休み 辻沢入りだ!)
夏休みになった。いよいよフィールドワーク実習だ。
ミヤミユもサキもとっくに辻沢の人になってる中、ようやくあたしも合流。
出遅れたけど調査対象ちがうから気にしないでおく。
あたしは辻沢でひと夏を過ごして陸の遊女傀儡子の家系を調べる。
荷物のトランクには、フジミユをまねてノートとかICレコーダーとかデジカメとか調査っポイものをいれてある。
東京から3時間電車を乗り継いでようやく辻沢入り。ユカリさん宅に着いた頃にはすでに暗くなってた。
(ゴリゴリーン)
〈どちら様ですか?〉
「ノタクロエといいます」
インターフォンの向こうのお嬢さん? に話が通ってなかったようで「フィールドワーカーは間に合ってます」と切られてしまった。
しかたないから今日は駅前のホテルに泊まることにして戻ろうとしたら、黒いミニバンのハイヤーが目の前に停まって、中から白いスーツ姿のユカリさんが降りてきた。
「ノタさん、失礼しました。仕事が長引きまして、どうぞお入りください」
今やっと用意してもらったお部屋に荷物置いて落ち着いてる。
「ノタさん、入りますね」
改めて見るユカリさんは、やっぱりこっちが気後れするほどきれい。
この前は、着こなしかなって思ったけれど、そうじゃない。
きれいすぎてずるい。そんな感じ。
「ごめんなさいね。最近、辻沢で物騒な事件が続いたものですから。うちの者にもよく用心するように言ってまして」
おばさん連続発火事件のことかな。何気に辻沢って怖いところかも。
「インターフォンの方はお嬢様ですか?」
「そうです。ノタさんと同じ学年なんですよ」
なんとなく高校生かなって思ったけれど、同い年だったんだ。
「仲良くしてやってくださいね」
どんな子なのかな。インターフォンの感じからすると、天然?
「長旅でお疲れでしょう、お風呂沸いてますからお入りください。そのあと、お食事にしましょう」
いいのかな、こんなお客さんしてて。ホントはそれこそ家政婦さんのように働くべきなんじゃないかな。
ミヤミユやサキたちどうしてるんだろう。
お風呂気持ちよかった。足伸ばして入れるお風呂なんてすごい久しぶり。
ここの洗面所、なんでか鏡がなかった。
お夕食、気まずかった。だってあたしだけ食べてたから。
出てきた料理は手の込んだものなんだけど、一人分しか用意されてなくて、お嬢さんの分は? って思ってしまった。
ユカリさんもマグカップで何か飲んでただけ。外で食事して来ちゃったのかな。
わざわざあたし一人のために食事を作ってくださったのかと思うと申し訳なくて、明日から皆さんのお食事の用意をしますって言ったら、
「お気遣いなく。家政婦にさせますので」
って言われた。
これって上げ膳据え膳ってやつじゃん。ほんと、とんだフィールドワークになっちゃったな。
少しお話して、9時が過ぎたので部屋に戻ろうとすると、ユカリさんが、
「一つだけ約束してください。就寝後に部屋の外で音がしてもドアを開けて覗かないでください」
何それ。ツルの恩返し的な?
先に辻沢入りしたミヤミユたちにメッセージ。
ドナドナーズ[
クロ(辻沢イン)
ミヤ(ようこそw)
クロ(サキいないね)
ミヤ(出掛けてるっポイ)
クロ(こんな時間に?)
ミヤ(夜行性だからw)
クロ(女子会どうしよか)
ミヤ(しばらく無理)
クロ(忙しい?)
ミヤ(めっちゃ農作業)
クロ(あしたから不安w)
ミヤ(すぐ慣れる)
クロ(そうかな)
ミヤ(あたしもそうだったから。サムアップ)
クロ(ありがと サムアップ)
ミヤ(もうおやすむね)
クロ(日本語へんw)
ミヤ(ねる)
クロ(おやすむ)]
ベッドはうちのよりふっかふかで寝そべると沈みそうだった。
電気を消して耳をすませたけれど、部屋の外で物音とかはしていなかった。
いったいなにがいるっていうのか?
辻沢初日の夜だけに緊張して寝付きが悪かったけどちゃんと寝たらしく、気付けば窓の外は明るくなっていた。
朝6時、ちょっと疲れが残ってるけど起きれた。
階下へ行き、リビングに電気が付いてたからおずおずと入っていくと誰もいなくて拍子抜けした。
テーブルの上には朝食が一人分用意されていて、その横に鍵とメモとが置いてあった。
朝ご飯は、目玉焼きとベーコンとキャベツの千切り。それにトーストが1枚。
全部トーストに挟んでクロックムッシュ風にした。
かぶりつきながらメモを見ると、
「ノタさんヘ 家の合鍵をお持ちください ユカリ」
お気遣いありがとうございます。
帰りの時間は不定だって言ったからかな。
鍵とかこんなに簡単に渡してもらえるって思ってなかった。
おぇへ、なにこのミルク、変な味。
ラベルに「辻沢醍醐」ってある。
これ、辻沢の古の味だって『ノート』に出てたやつ。
あとでお腹ゴロゴロしないかな。
「ごちそうさまでしたー。美味しかったでーす」
……。
家政婦さんがいるかもってキッチンに声掛けたけど、やっぱ誰もいない感じ?
皆さん姿を現わさない人たちなのかな?
お皿洗って部屋に戻ろう。
途中、階段の踊り場に扉があるんだよね。この間ちょっとドアが開いてて、本棚が見えたからきっと書斎かなんか。
もしかここに、四宮浩太郎の『日記』がしまってあったらって。
畑中先輩に教えてもらったんだけど、『ノート』とは別に調査時の心情を吐露した、四宮浩太郎の『日記』があるらしい。
B・マリノフスキーの『西太平洋のアルゴノーツ』と『マリノフスキー日記』みたいに。
でも、四宮浩太郎の『日記』のほうは所在不明のままで誰も見た人はいない。
畑中先輩が言うには、『辻沢ノート』と『日記』とが揃ったとき『辻沢のアルゴノーツ』が完成するらしい。
あたしは『辻沢のアルゴノーツ』の完成とかは興味ないけど、『日記』は見てみたい。
調査するフィールドを記録した『ノート』という成果物がある。
その時のナマの感情に『日記』を通して触れられたら至福だ。
それと『日記』なら『ノート』に書かれなかった辻沢の裏のことがきっと載ってる。
例えば陸の遊女以外の「傀儡子」が存在するとかだ。
荷物は持ったと。さて調査へ出発。
これから辻女の教頭先生にお会いして一緒に調査地に連れて行っていただく。
(毎日2エピソード更新)
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