「辻沢ノーツ 15」(ヴァンパイアのコスプレ衣装)
ご挨拶終わった。
あとはヴァンパイア祭に参加して今回の事前調査は終了。
近くの停留場でバスを待つ。初めて乗る辻バス。
「辻沢駅まで」
(ゴリゴリーン)
町役場でもらったゴリゴリカード使ってみた。
目の前の席、ヴァンパイアメイクに制服くずしたJKが3人座ってる。
ちょっと胸元強調しすぎかな。
あ、この子たちの制服、あたしのゴリゴリカードのと同じだ。成美女子工業高の子なんだね。
「この間、おばさんが火事んなったのあったしょ」
中の一人が窓の外を見ながら話し出した。
「それ、ショーシンジサツな」
隣の子がスマホをいじりながら返事をする。
シンゾウさんの離れのこと? あれって自殺だったの?
「それがさ、あれ自殺じゃなくて殺されたんだって」
「んなわけねーしょ。交番の前だし、めっちゃヤジューマだったってぞ」
交番の前か。じゃあ違うか。
「だしょ。それがさ、誰かに刺されたら燃え出したって」
「はあ? それはツリだわ。人が刺されただけで燃えるかよ」
「いや、マジでマジで」
「ツリツリ。そんなでっけー釣り針、ウチ引っかかんねーから」
「ツリじゃねーて」
「てか、ミノリ。歯に青のりついてっから」
「うっそ、マジで? 昼メシの焼きそばだ。カエラ、鏡貸して」
その隣でマンガ雑誌を見てた子がピンクの手鏡をカバンから出して、
「はい、鏡。それで3人目なんだって、しかもおばさんばっかり」
「ありがと、あ? カエラなんて。アイリどこよ、どこについてんの?」
「うっそー。だまされてんのー」
「こんの。テメ、コロス」
「テメーが、クソねたブッ込むからだろ!」
シンゾウさんの離れのボヤで犠牲になった人、勝手に男の人だと想像してたけど、もしかしたら女性だったのかな。
サキが言ってた「おばさんが辻沢でちょっと」ってまさか……。
それはないか。
待ち合わせのスーパーヤオマンに最後に着いたのはあたしだった。
ミヤミユもサキも、ステー先は納得の場所だったみたい。
お互い距離も近くてSNSで連絡とり合えば問題なさそうだった。
「ノタさんのところはどうだった?」
鞠野先生に聞かれたので、
「申し分ないくらいでした」
と答えたけれど反応薄かった。
後でミヤミユに、
「四宮浩太郎の家だったんだよ。なのに鞠野先生ってば」
と言いかけた所で、
「しー、メッチャデリケートな話らしい。フジミユに聞いたんだけど、二人は四宮の奥さん巡っての恋敵だったって」
なるほど、そういうことか。
鞠野先生にはバモスくんで待っててもらって、あたしたちはスーパーヤオマンでお買い物。コスプレ用の服を物色する。
ガレージタイプのお店の中は、衣類が雑然と配置されていて、紳士服や婦人服といった区別さえ分からない感じ。
そんなでも、コスプレコーナーは入口入って右の目立つところにあったからすぐ分かった。
どれにしようかって3人で見てたら店員さんが寄ってきた。
「ペアのヴァンパイアものはほとんど売れちゃったんですけど」
お祭では女子がペアになってお揃いコーデするってことになってて、それは宮木野さんと志野婦さんとが双子のヴァンパイアってのにちなんでのことらしい。
こっちは3人なんだけどな。
「3人お揃いのなら、人気のモチーフものがありますよ」
と言って出して来てくれたのはバスケのユニフォーム。
ゼッケンが4番、6番、9番だ。どこか見覚えのあるユニフォームな気が。
するとミヤミユが、
「これって辻女のユニフォームですよね」
後ろを返すと、「舐めてっとすりつぶす!」とあった。
「そうです。だって、辻女バスケ部員連続失踪事件がモチーフですから」
店員さんが教えてくれた。
辻女バスケ部員連続失踪事件は、3年前に辻女のバスケ部員が続けて3人失踪したという事件だった。
バスケの川田先生言ってたな。
(「ここのバスケ部、いろいろあって部員が集まらなくなってね。今、3人しかいないんだ」)
いろいろって、そういうことだったんだ。
「連続失踪事件とか、夏休み注意しないとね」
「だよね。なんか、最近おばさんが何人もなくなってるんだって」
「事件で? 事故で?」
「人に刺されたって、で燃えたんだって」
「燃えたって、やばい」
背後に視線を感じてそちらを見るとサキが怖い顔してあたしを見ていた。
怒ってる? 気のせい?
みんなで相談して、どこにでもあるコウモリの羽根付きタキシードに落ち着いた。
中の付け襟が選べるタイプで、あたしはレースのにする。
奥の試着室で着替えさせてもらうことになった。
胸まわりがきつかったけどなんとか着れた。
試着室を出たらミヤミユが待ってて、二人で姿見のあるところでポーズ決めてみた。
ミヤミユはよく似合ってた。あたしは胸が盛ってるみたいに見える以外は、いけてる感じだった。
お会計済ませようと思たら、サキが来ない。
「サキまだー?」
とサキが入った試着室に呼びに戻ると靴がなかった。
「トイレかな」
「あたし見てくるね」
そこから右手奥の非常口のアルミ扉に男子/女子トイレマークが見えた。
非常口はすぐなのに、洋服のラックや靴下のワゴンが邪魔をしてなかなか近づけない。
悪戦苦闘の末、ようやく緑の誘導灯の下に辿りついて扉を開けると、そこは外壁に沿った狭い通路になっていた。
右がトイレだけど灯りが点いてない。左は暗い通路がずっと続いていて、奥のほうの扉から灯りが漏れている。
そっちに歩き出そうとしたら、扉が開いてタキシード姿のサキが通路に出て来た。
手を振ったけどガン無視でゆっくりとこっちに歩いてくる。
サキの手に1mほどの細長い紙包みが握られていたので、
「何か買ったの?」
と聞くと、
「ノタ、そこ邪魔」
と言ってあたしを押しのけて行ってしまった。
会計をそれぞれで済ませて、バモスくんのところに戻ると、
「あれ? 着替えて来たの?」
と鞠野先生。
ホテルに着替えに戻るついでにバモスくんも置いて来れると思っていたらしい。
あたしは着替えた服はバモスくんに乗せておくつもりでいたけど、バモスくんってば車体スッカスカでセキュリティーゼロなのに今、気が付いた。
結局、荷物を鞠野先生にお願いして後で合流しましょうということで、あたしたちはスーパーヤオマンで分かれた。
夕闇がすぐそこまで来ていた。
祭の喧騒が巷にあふれ、ヴァンパイア姿をした女子がぼちぼち現れ始めていた。
私たちはその中にゆっくりと歩み入ったのだった。
(毎日2エピソード更新)
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