「書かれた辻沢 22」(傀儡子同士)
朝起きると誰かがドアをノックしていた。
ベッドから抜け出して怒髪を撫でつけながら応対に出ると、
「ボク。開けて」
扉を開けると早朝の緑の草木を背に白パーカーにデニムの短パン姿のユウさんが立っていた。
「おはようございます」
ユウさんは挨拶代わりに右手を小さく上げて、あたしの「どうぞ」よりも早く中に入って来ながら
「クロエって子のこと教えて」
と用件を聞く前に言った。
「クロエが何かしましたか?」
と心配になって聞いてみた。
「違うよ。気になるから会ってみようって」
よかった。でも……。
会う? ユウさんとクロエが?
「ボクとそっくりなんだろ?」
「そうです。見分けがつかないほど」
顔はもとより背恰好まで。
どちらも傀儡子という点も同じだけど、かたやそれを自覚までしていて、かたや傀儡子の存在すら知らない。
こんな二人をぶつけて変な化学反応とか起きたりしないか?
せめて紫子さんに相談してからにしてほしかった。
それをユウさんに言ってみたが、
「大丈夫。会って一緒にスレイヤー・Rに参戦するだけだから」
あたしは、ユウさんの言うことに全然ついて行けない。
なんでクロエとスレイヤー・Rしなきゃいけないの?
「けちんぼ池に行く条件のこと話したろ。もしクロエって子がそれに合致していたら、あの場所で何かがおこるだろうから」
夕霧と伊左衛門、まめぞう、さだきち、りすけがいてヒダルが揃えばってやつか。
それにクロエがはまっていればけちぼん池が出現する?
でもはまっていなかったら、アンチ決定?
ミユウが突き止めた傀儡子神社の屋形船は?
ユウさんは結論を急ぎすぎてる気がした。
でも、あたしがクロエのことを話さなくても、きっとユウさんは思ったことを実行する。
ならば出会い頭でクラッシュしないよう、ユウさんにクロエのことを話しておいたほうがよさそうだった。
ミユウともう一人の同級生と3人で辻沢でフィールド調査をしていること。
クロエは傀儡子の家系を調べていること。
今は四ツ辻でインタビューを行っていることなどだ。
「クロエは家系を調べてるんだ。ミユウの傀儡子神社の実測といい、ボクには面白さが全然分からないよ」
フィールドワークはその地域や人へのアプローチの仕方であって目的ではないので、たいがい「それ、おいしいの?」という反応になる。
「参戦するとしたらいつですか?」
「これから会いに行くから、早ければ今週末の定例で」
あたしがサキと約束した回だった。
クロエが危険に冒されるのは心配だけど、あたしの思う一兆倍強いユウさんを信じることにする。
それにその日ならあたしもクロエのことを陰から見守ることができるかもしれないから。
ユウさんが戸口に立って、
「ボクがクロエと会うにあたって注意することある?」
と聞いてくれたので、ミユウのこととあたしが辻沢にいることはクロエには言わないで欲しいと言った。
ユウさんはその理由は聞かず、
「おk」
とだけ言って足早に駐車場の真っ赤なスポーツカーに向かった。
まひるさんが一緒かと思ったが、コテージから見た限りでは車に乗っていたのはユウさんだけのようだった。
スレイヤー・Rの当日は朝から落ち着かなかった。
自分だけでなくクロエの心配までしなければならないからだった。
というのも昨晩からクロエのいる場所がおかしいのだ。
昨日は一日休みだったのか調邸にずっといたようだが、夜中になって駅前に急に移動したのだった。
場所をマップにプロットするとそこはサキのいるヤオマン・インで、もしや会いに行ったのかと思ってサキに連絡を入れてみたら来ていないという。
それで直でクロエに連絡したら調邸から追い出されたと言った。
何をしでかしたのか、出禁になったのだそうだ。
鬱らしいのであたしも出禁経験あると言って慰めてあげると持ち直したようだが、心配だ。
ついでにしっかりユウさんから誘いを受けていることも知れて、今夜あたしたちはスレイヤー・R出玉祭同時参戦決定。
もう一度サキに連絡を入れて今日の予定を確認する。
すると、こんなことはあまりないけれどと前置きされて、
「時間が早まった。6時に青墓の駐車場で会おう」
と言われた。
それで大急ぎでシャワーを浴びて昨日のうちに買っておいた迷彩服を着てヘルメットをかぶりヘッドライトを装着して小ぶりのリュックを用意する。
それに必需品の水平リーベ棒を入れて、夜でも熱中症対策にペットボトル2本と絶対お腹すくからコンビニで買っておいた塩にぎり3つとクロエの動向を記録するノートPC、何か発見した時のために野帳と、ないかもだけど実測する時用にコンベックスと……。
また、リュックがパンパンになってるし。
(毎日2エピソード更新)
続きはこのあと21:10に公開します
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たけりゅぬ




