「書かれた辻沢 11」(醜態のコテージ)
ユウさんとまひるさんにお礼をして、ヤオマングランドホテルのスイートルームを後にした。
これから鞠野先生が待つ大門総合スポーツ公園に戻る。
「お送りしましょうか?」
とまひるさんに言っていただいたけれど、ここまで送って頂いたのも申し訳ないのでお断りした。
駅前でバスを待つ間、周辺の記憶の糸を意識してみる。
一番に目につくのは傀儡子のそれだ。
◇
中学生でフィールドワークを初めてすぐ、あたしは紫子さんを頼って辻沢に調査に来た。
辻沢駅に着いてすぐあたしは激しいめまいを覚えた。
それは、この駅に降り立った、あるいはここから旅立った傀儡子たちの記憶の糸が、我がことのように絡みついてきたからだった。
そこをなんとかやり過ごして、四ツ辻行きのバスに乗ると目を疑った。
記憶の糸がバスの中でまるで巨大な練り飴のように捻れあっていたからだ。
あたしはそれに触れないように用心して乗って、辻沢の街中まではなんとか我慢した。
ところがバスが宮木野神社を通り過ぎてバイパスの交差点を抜けたくらいで限界が来て我慢が出来なくなり、次のバス停で降りることになった。
バスを降りてからも、あたしは田んぼの道を歩きながら傀儡子の記憶の糸を読み続けていた。
田んぼの中にも傀儡子のいろんな世代のいろんな人たちの糸が紡がれてあった。
拒絶しようにも一本一本があたしの足を掬い、腕に絡みついて放さない。
あたしは遂にはその場に蹲って、それをとめどなく読み続けることになってしまった。
「ミユキちゃん。こんなところにいたのね」
その言葉であたしは我に返った。
あんまり遅いので紫子さんが車で迎えにきてくれて助かったのだった。
◇
ようやくバスが来た。
「大門総合スポーツ公園入口」
(ゴリゴリーン)
今では記憶の糸の練り飴に出くわしても心の準備ができているので、前のように混乱はしない。
しかしどうしてなんだろう。
辻沢は最古層から膨大な数のヴァンパイアの記憶の糸が折り重なっているはずなのに、あたしにはそれを見つけることが出来ない。
だから、パジャマの少女の記憶の糸も探しても見当たらないのだった。
「次は、大門総合スポーツ公園入口です」
(ゴリゴリーン)
コテージで少し休んだら四ツ辻へ行って紫子さんにミユウのことを話すつもりだ。
四ツ辻方面行のバスは一時間に1本あるかないか。時刻表を見ると次は1時間半後だった。
コテージに向かう途中、駐車場を通ったがバモスくんの姿はなかった。
レッカー車でどこに連れて行かれたのか? もしかして廃車? 可哀そうに。
あたしのコテージのドアには羽目板がしてあって入れなくなっていた。
メールを見ると鞠野先生から着信。お昼過ぎのだ。
[マモル 隣のコテージに荷物ごと移動しました]
とあった。
ちょっと待って。
鞠野先生があたしの私物を持ち出したってこと?
マジか。
隣のコテージは大きかった。
これはファミリータイプに違いない。
ウッドデッキの階段を上がりノックをしたが返事がない。
ドアは鍵もかかっていなかった。
そおっと中に入ると驚いた。
これは完全に無理!
部屋には木製ベッドが並んであって、その一つにあたしの荷物(着替えとか、着替えとか、着替えとか)が山になっている。
スーツケースどこやった?
もう一つのベッドには、白ワイシャツのボタンを盛大に外して鞠野フスキが大いびきをかいて寝ていた。
しかも泥の付いたベアフットシューズを履いたまま。
生徒の部屋に居つこうなんて、どんな不良教師なんだか。
「先生! ちょっとこれは無理です。先生ってば」
肩をゆすってたたき起こす。
目を覚ました鞠野フスキが寝ぼけ顔で辺りを見回しながら、
「あー、フジノくん戻ったね。気分はどうだい?」
と気の抜けたことを言うので、
「なんですか? 女の子の持ち物をこんな乱暴に。しかも、のうのうと同宿までしようって。教師として恥ずかしくないんですか?」
「あ。え? なに? あ、ごめんなさい。管理人から早急に出て行くように言われて、あれよあれよと言う間にファミリータイプを契約させられて、荷物を忘れてるって言われて慌てて全部かき集めて……」
とあたふたと説明しだした。そして最後に、
「他意はございません」
とベッドの上に正座しようとしたから、
「靴!」
おずおずと靴を脱ぎ、頭を下げたのだった。
Yシャツのボタンを嵌めながら顔を上げた鞠野先生の目に涙が溜まっていたので一旦あたしも落ち着くことにした。
「こんなことしたら、またゼミの人から誤解されますよ。鞠野先生」
「申し訳ない」
いつまで経ってもフジノ女史愛人説がなくならないのは、ほぼこの人のせいだ。
(毎日2エピソード更新)
この続きは明日21:00公開です
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たけりゅぬ




