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辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第三部 書かれた辻沢(フジノミユキのオートエスノグラフィー)

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133/256

「書かれた辻沢 10」(けちんぼ池仮説)

 まひるさんにご招待いただいたヤオマングランドホテルのスイートルームは、あたしには場違い感しかなかった。


ロビーから10階まで直通の専用エレベーターで昇り、ふかふかの絨毯が敷かれた深紅の廊下を歩いて、純白に金装飾が施されたドアの前に立った。


何も言わずとも自然に扉が開くと、顔半分が包帯のゴスロリメイドさんが深々とお辞儀をして迎えてくれた。


「この子はコトハといいます。あたくしの妹です」


 とまひるさんに紹介されたので、


「こんにちは。初めまして」


 と挨拶したがコトハさんは虚空を見つめたまま無言だった。


 室内は天井が高く緞帳のような分厚いカーテンに豪華な照明が灯り、巨大なソファーに腰を下ろすと、いたたまれなさにお尻がムズムズして仕方がない。


 そんな中でまひるさんが別の部屋に行ってしまいユウさんと二人きりになった。


ユウさんのことはミユウから沢山聞いていたけれど、いざこうなると何を話せばいいか分からない。


 ソファーに深く座って片膝を組むユウさんは、そっけない言葉遣いとは違ってとても可愛らしい横顔をしている。

 

可愛らしさはクロエも同じだけど、ユウさんはどこか違う世界の人のような突き抜けた感じがあった。


「ついこの間、ミユウとここに来たな」


 ユウさんが呟いた。


 改めて部屋の中を見回すと、場所の記憶の糸の中にミユウのものがあった。


今のあたしよりそわそわした気持ちと嬉しい気持ちの糸だった。


そういえばミユウはゲームアイドルに興味があると言っていたのだった。


 まひるさんの記憶の糸もうっすらと見えたが頼まれない限りそれを読むことはしない。


勝手に読むのは人のスマホを開けて許可なくSNSやメールを見るのと一緒だからだ。


あたしが場所の記憶を読めることを知った上で招待してくれていると思うと尚更だ。


 ただ、気がかりだったのは妹のコトハさんの記憶の糸がまったく見当たらないことだった。


人は生きていれば記憶の糸を残してゆく。


些細なことでも場所の記憶として蓄積されるものなのだが、まるでここにコトハさんが存在していないかのような状態なのだった。


 しばらくして、まひるさんが別の部屋からキャスターを押して出て来た。


そのキャスターには大皿のサンドイッチ・オードブルが乗っていた。なんておいしそうなんだろう。


様々な具材のサンドイッチが華やかに飾り付けられて食べるのがもったいないくらい。


まひるさんがテーブルの上をセッティングするのを見ながら、


「まひるが作るのは、いつもうまそうだな」


 まひるさんが手ずから作ったことに驚いてから、


「おいしそうです」


「ありがとうございます。ここではあたしが料理を作っても誰も食べませんので、お客様をお招きした時だけが腕の振るい時なんです」


 と小皿と手拭きをユウさんとあたしに手渡しながらまひるさんが言った。


ユウさんは、それを受け取って一旦テーブルの上に置くと、まひるさんとあたしに向かって、


「ミユウのために黙とうをしたい」


 と言ったのだった。


 ユウさんとまひるさんが黙とうをした。


あたしもそれに倣って黙とうする。


こういう時、人は何を想うのだろう。


冥福を祈る? それとも寂しい気持ちを伝える?


でも、あたしはそのどちらもしない。


またすぐ会えるから。


それで、あたしはミユウとの楽しかった寮生活を思い出すことにした。


きっとミユウは喜んでくれたと思う。


「食いたいだろうな、ミユウも」


 とユウさんの声が聞えたので目を開けると、ユウさんはすでにトマトサンドを口に運んでいた。


「あいつ大食いだからな」


 とも。


あたしもそれは否定しないし、なんならあたしの方がよく食べると思いながらも、手が出せずにいると、


「どうぞ、遠慮なさらずに」


 と言ってまひるさんが取り分けた小皿をあたしの前に置いてくれた。


「いただきます」


 と一つ取って頬張ると、おいしすぎた。


「ほいひいれふ(おいしいです)」


 食べながら喋るなんて、あたしはマナーをどこかに捨てて来たのか?


「ありがとうございます」


 と言ったまひるさんの笑顔が眩しすぎた。


 ユウさんは最初の一つしか食べないし、まひるさんはサンドイッチには手をつけず、あの奇妙な味の飲み物だけを口にしていた。


だから結局ほとんどあたしが食べたことになったのだけど、まだ入りそうだった。


食い意地が張ってるのではなく、それくらいおいしかったと言っておきたい。


 お昼を食べ終わって、銀座吉岡屋のマカロンと薫草堂のカモミールティーを頂きながらミユウの話をした。


ユウさんは傀儡子神社でしたのと同じ実測の話を繰り返した。


何度でも、ミユウがすごかったことを聞かせたいらしかった。


「傀儡子神社の土中に埋まった船型の社殿を曳いて行き、青墓の丘の中腹に据える」


 ミユウは、それでけちんぼ池が出現すると仮説したのだそう。


頭で考えるだけでなく、地道な調査を積み上げてそこに到達したことに価値があると思った。


 あたしはミユウに再び会うためにその意思を継がなければならない。


ミユウが傀儡子神社を実測したならそれを記録したノートがあるはずだ。


拠点にしてた紫子さんの家を訪ねればそれを見ることが出来るだろう。


それに、ミユウのことを紫子さんに報告しなければいけない。


とても気が重いことだけれど。


(毎日2エピソード更新)

続きはこのあと21:10に公開します


よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾


たけりゅぬ

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