「書かれた辻沢 6」(血の味の赤い糸)
鞠野先生とユウさんと夜野まひるさんのところに戻ると、
「僕はここで見てるから」
と鞠野先生が言う。
他に何か出来るわけでもないのにと思いつつ、そういうところが鞠野先生らしくもあるので、
「そうして下さい」
と答えておく。
ユウさんと夜野まひるさんにもう一度お願いして手を繋いでもらう。
お二人の掌を感じながら、
「読みます」
と言ってからミユウの記憶の糸に顔を近づけた。
ひときわ赤い記憶の糸はあたしに気付いたかのように糸口をこちらに向けて来た。
それはミユウが寮のキッチンでおはようと言ってあたしに体をすり寄せて来るのを思い起こさせた。
そこにミユウの意志が宿っているようにあたしには感られたのだった。
赤い糸の先を口に含んでみる。
記憶の糸を口で読むなど初めてで、それがどんなものか、やっていいものなのかも知らなかった。
ところがやってみると、案外薬指での場合と変わらず読めそうで驚いた。
ただ、血の味がするのは生々し過ぎてつらかった。
あたしが口にした記憶の糸はミユウらしさがあって、なかなか読ませてくれなかった。
うわべの物語はあっちから来てここで立ち止まったんだよと言っていた。
しかし何であっちから来たのか何でここで立ち止まったのか理由はわからなかった。
何かを守って頑なに口を閉ざしているようでもあった。
あっちから来たというほうに意識を向けてみる。
それはバス通りのコンビニ近くまで繋がっていた。
そこにこの記憶の糸が意味づけられたとおぼしい場所があった。
視覚でいうと、ぼわっと明るくなっている感じだ。
その明かりがどうやら端緒のようだった。
明かりの中に踏み込んでみる。
ほの明るい光の中にミユウとユウさんが一緒にいるのが見えた。
ユウさんがなぜだかカレー☆パンマンのパーカーをミユウに手渡していた。
何か変だと思ってもう一度よく読んでみると、それはユウさんではなかった。
「クロエがいる」
昨晩あたしと潮時を一緒にしたはずのクロエだ。
どういうことだろう?
周りの感じからすると夜明けころだ。
そのころクロエは意識の閾にいて、あたしと調邸に向かっていた頃だ。
どういうこと?
しかし、そのもやもやはすぐに溶けた。
ミユウ自身がそのクロエに疑念を持ち始めていたからだ。
それはそうだろう。
けちんぼ池を「けちぼん池」と言い間違えたり、カレー☆パンマンのパーカーに商品タグ付いたままだったり。
ミユウでなくてもそいつがクロエではないと容易に気付く。
ならばこれはいったい何者なのだ。
この者がミユウに何かしたのだろうか。
三叉路に行き当たった。
三叉路の前でミユウは何かを決意していた。
そして一方の道に、大きな心残りを置いて違う道に踏み出していた。
その時のミユウの心にユウさんの笑顔が映っていた。
そこからのミユウの歩みは、ひたすら前を向いて後ろを振り返ることはしなかった。
背後にひたひたと付き従うのはクロエのふりをした何か。
ミユウは無言のまま先へ先へと歩を進めていたのだった。
ミユウの視線の先に大曲大橋が見えた。
それはちょうどあたしやユウさん夜野まひるさんが今いるこの場所だ。
ミユウが立ち止まった。
それと同時にクロエだった者が本性を現した。
そのパジャマを着た少女をあたしは知っていた。
(毎日2エピソード更新)
続きはこのあと21:10に公開します
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たけりゅぬ




