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辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第三部 書かれた辻沢(フジノミユキのオートエスノグラフィー)

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「書かれた辻沢 5」(手を繋ぐ)

 辻沢からN市まで宮木野線と並走する旧道だと1時間かかる。


それに対しバイパスは20分で抜けられるので、N市に出勤する人の車で緩い渋滞になっていた。


あたしたちの車もスピードを落としてその列に加わる。


「ミユキが読むのって時間が経つとダメとかないの」


 背中でユウさんが言った。


「ずっとあったりなくなったりです」


 記憶の糸はある日は見えていたのに他の日には見えなくなったりする。


あることは分かるけれど目を凝らさないと見えてこないものとかもある。


これはその糸自体のせいというのではなく、多分読み手のあたしによるんだと思う。


だから辻沢であたしが目にする記憶の糸は傀儡子やフィールドワーカーのものが多いのじゃないだろうか。


 夜野まひるさんがウインカーを付けて右折車線に入った。


大曲大橋の袂の雄蛇ヶ池端へ降りる道に入るつもりらしい。


脇道へ入り砂利を踏む音を聞きながらエメラルドグリーンの水を湛える雄蛇ヶ池に降りていく。


「ここでした」


 車を停めて夜野まひるさんが言った。


あたしは車の中からミユウの記憶の糸を探した。


 誰かの、日課のランニングを今日で止めようとしている記憶。


釣り人の芳しくない釣果の記憶。


捨ててはいけないものを沈めに来てしまった人の記憶。


遠くからチャリで来た中学生たちの記憶。


様々な記憶の糸がこんな往来の少ない脇道にも折り重なっていた。


 その中に一際目立つ真っ赤な糸があった。


あたしの薬指の糸と同じ色だ。


それは道の遙か前方からこちらに向かって来て、車の手前でぷっつりと切れていた。


「ありました」


 そういうと、背中のユウさんが、


「出よう」


 ドアロックが解除される音がした。


ユウさんは片手を伸ばしてドアハンドルを手探りしている。


あたしが代わりにハンドルを引いてドアを開けると、ユウさんが小さく息を吸う音が聞こえた。


車を降りて砂利の道に立つ。


ミユウの残した記憶の糸があたしに気がついたかのように糸口をこちらに向けてきた。


これをあたしは読むのか。


あたしは足が震えて動けなくなってしまった。


そのとき、背中に何かが触れた。


ヒヤッとするそれは、あたしの横にいつの間にか立っていた夜野まひるさんの掌だった。


「無理をなさらずに。やめて頂いても結構ですよ。ユウ様もそれは分かって下さっています」


 車の横に立って腕組みをしているユウさんを見た。


「言ったろ。自分で探すって」


 そんなこと女の子のユウさんにさせられないからと思ったら、


「大丈夫ですよ。ユウ様はミユキ様が思う1億倍お強いですから」


 と夜野まひるさんがあたしの心を読んだかのように言った。


「1億倍って……」


「1兆倍かもな」


 ユウさんが大げさに片眉をつり上げながら言った。


それであたしはようやく気がついた。


あたしにはこの人たちが付いていたんだと。


なんで今まであたしはミユウの記憶の糸を一人で読もうとしていたのだろう。


「あたし読みます。その前にお願いしてもいいですか?」


「何なりと」


 夜野まひるさんが笑顔で言った。


その笑顔に思わず惹きこまれそうになったけれども、それは後にして、


「あたしと手を繋いで下さいませんか?」


「あたくしなどでよろしければ」


 と言って夜野まひるさんが手を差し出した。


手を繋ぐと夜野まひるさんの掌はとても冷たかったけれど、かえってそれがあたしの気持ちを落ち着かせてくれた。


「あの、できればユウさんも」


「いいよ」


 とユウさんもあたしの横に来て力強く握ってくれた。


 二人のサポートを同時に受けるという思いつきはよかった。


でも失敗だった。


両手が塞がってしまったのだ。


あたしはこれまでずっと記憶の糸を薬指で触れて読んできたのだった。


どうしよう。


思い切ってあたしはミユウの記憶の糸を口に咥えることにした。


真っ赤な糸に口を近づけた。


その時、


プップッピーピー。


場違いな音がした。


あー。あのおかしな音はバモス・ホンダTN360。


鞠野先生が来たんだ。


 砂利の坂道を振り返ると大曲大橋から、クロエ曰く「コアラのお面みたい」が降りてくるのが見えた。


「お知り合いですか?」


 と夜野まひるさんが言ったので、


「はい。大学の担当教授です」


 と説明した。


 あたしは鞠野先生が来るのを待つことにして、ユウさんと夜野まひるさんに一旦繋いだ手を離してもらった。


「なんか、全然近づいて来ないな。あれ」


 ユウさんがボソッと言った。


そう言えば、バモスくんはさきほどの位置から動いている感じがなかった。


「ちょっと見てきます」


 あたしは様子を見に砂利道を駆け上がった。


 バモスくんの運転席を覗くと背中を窮屈そうに折り曲げてダッシュボードの下に頭を突っ込んでいる白Yシャツが見えた。


「先生。どうしたんですか?」


 と声を掛けると顔を上げた鞠野先生は、


「いやね。ブレーキが踏みっぱなしになっちゃって」


 と情けない声で言ったのだった。


取りあえずバモスくんはそこに停めて、あたしは鞠野先生に事情を話しながらミユウの赤い糸のある場所にもどったのだった。


(毎日2エピソード更新)


この続きは明日21:00公開です


よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾


たけりゅぬ

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