「書かれた辻沢 4」(幸せを語らぬ場所)
気を失って目を覚ましたあたしに、ユウさんは指だけ残してミユウがいなくなったと話してくれた。
それを聞いて涙が止まらなくなった。
「まだ死んだと決まったわけでないよ」
あたしは夢で見た千切れた指が気になってしかたなかった。
「この薬指が落ちていた『場所の記憶』を読んで欲しい」
ユウさんの頼みだけど、 今の気持ちのままで行ってもきっと読めないと思い断った。
「そうか、なら仕方がない」
とユウさんが立ち上がって戸口に向かおうとするので、
「どうするんですか?」
と聞くと、
「探すだけだよ。青墓や地下道を」
と言った。
そんなことさせてユウさんが屍人や蛭人間に襲われたらどうしよう。
いくらユウさんが強いといっても、あれは女子の力でなんとかできる存在ではないはずだ。
あたしが場所の記憶を読めば、ユウさんは無理をしないですむかもしれない。
「あたし行きます」
「そうか。車で待ってるから」
ユウさんは自分が蹴破ったドアを立てかけてロッジから出て行った。
着替えのためベッドから這い出たらちゃんと立てた。
倒れた時からしたら信じられないほどの回復力だった。
理由はおそらく机の上の奇妙な味の飲み物のせいだろう。
とんでもないエナジードリンク。どこで売ってるんだろう。
「これは非売品ですが、回復したのはミユキ様自身の治癒力のせいです」
壊れたドアは、後で管理人さんに直して貰うとして、無くなって困るものだけショルダーバッグに放り込んだ。
出掛ける前に鞠野先生に連絡を入れる。
[ミユキ コミヤミユウに何かあったようです]
[マモル 了解しました]
[ミユキ これから読みに行きます]
[マモル すぐそちらに向かいます]
来るって。鞠野先生、今どこ?
鞠野先生が一緒にいてくれたら心強いけど、「読む」時までに間に合うだろうか。
表に出ると駐車場に血の色みたいなオープンカーが停まっていた。
巨大なウイングとぶっといタイヤをしている。
品川ナンバーだ。
夜野まひるさんの車だろうか。
「乗りな」
助手席のユウさんが手招きしてくれた。
どうやって乗ればいいんだろうと思ったら、ユウさんが自分のモモをピシャピシャ叩いて、
「後ろ狭いから、お膝」
と言った。
え? でもあたし結構重いから。
ドアが開いて手を引かれ、勢いでユウさんの膝の上へ。
「出発しますね」
運転席の夜野まひるさんが言った途端、猛烈な勢いで砂利を蹴立てて車がスタートした。
ダッシュボードに掴まろうとしたが、間に合わず体全体がユウさんに押しつけられた。
車は辻沢の街を目指していた。棚田の広がる山間部の道を猛スピードで走り抜けてゆく。
稲穂の波が車を追いかけてくるのが見える。
夜野まひるさんは前を向いて一言も発しない。
ユウさんもあたしのお腹に腕を回して押し黙ったままだ。
みんな同じ場所に想いを馳せている。
ミユウがいなくなった場所。
そしてその場所が幸せを語らないことを、みんなが知っているようだった。
(毎日2エピソード更新)
続きはこのあと21:10に公開します
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たけりゅぬ




