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辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第三部 書かれた辻沢(フジノミユキのオートエスノグラフィー)

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「書かれた辻沢 1」(半身の半生)

 今朝はクロエとあたしにとって辻沢で初めての潮時明けだった。


意識の閾にいるクロエをステイ先の調邸に送り届けて、朝の7時にベースのロッジに戻って来た。


今日はいつになく疲れた。


走り通しの汗が冷えて寒気もする。風邪ひいたかも?


ミユウに借りたカレー☆パンマンのパーカーすぐ洗濯しなくちゃ。


何もしないでベッドに潜り込んで眠ってしまいたいけど、それが先。


クロエの今夜の行動記録も野帳からノートに写さないとだし。


 今回の潮時もクロエは精力的によく動いた。


基本は走りっぱなし。


時々立ち止まってはそこにいる誰彼となく交感してまた走る。


距離にしたら一晩でフルマラソンぐらいは走ったんじゃないだろうか。


まあ、数百キロを踏破することもあるクロエにしてみれば、水辺でパチャパチャ程度かも知れないけれど。


 あたしは、そんなクロエを位置情報で見極めながら追いかける。


クロエのスマホにアプリを仕込んでいるのだ。


それでもクロエは所構わず突っ込んでいくから、追いかける方は大変なのだった。


街中の時はいい。


見失わないよう、離されないように気を配るだけだから。


それが危険な場所に入って行かれた時は、こっちも覚悟しなければいけない。


辻沢で言えば地下道や青墓の樹海だ。


屍人やヒダルのような危険な存在に遭遇しないとも限らないからだ。


 幸い今回は辻沢の街の外は西山地区の山中を駆け廻っただけで済んだ。


クロエは木々の間をすりぬけ、急峻な斜面を易々と登っていく。


あたしは崖から落ちかけて雑草に捕まりギリギリで助かった。


これも普段の鍛錬とボルダリングのおかげだ。


……それは嘘。

 

あたしが傀儡子のはしくれだからなんとかついて行けてるのだ。


潮時前になるとそわそわするのはクロエのお世話が控えているからだけじゃない。


あたし自身が潮時に何かを感知しているからだと思う。


いざ潮時になるといつもより力が沸いて来る気もする。


――漲るというか。


クロエのおばあちゃんが亡くなって、傀儡子使いを引き継いでからそれを特に強く感じる。


だからもともとクロエはあたしのエニシだったんじゃないかと思うときがある。


大学生になって初めて出会ったけれども、本来は固い絆で結ばれるはずの二人だったのじゃないか。


ミユウとユウさんのような。


 クロエの傀儡子使いという大役が回ってきたのだって、急なことで他に人がいなかったからだ。


でも、あたしが傀儡子使いを引き受けると申し出た時、鞠野先生は、


「エニシがフジノさんを繋げたのかもね」


 と言ってくれたのだった。


すごく嬉しかった。


 あたしは、これまで半身で生きてきた。


自分の片割れを失ったままの気がしていた。


それは紫子さんに言われる前からずっとそうだった。



 小学校三年の夏休み前だった。


施設の先生やお友達とお別れをし、その時紫子さんに初めて会って運転手付きの黒いミニバンに乗せられた。


施設を出たミニバンは山へ向かい、うねうねと曲がりくねった道を走ったのだった。


車に慣れていないあたしは直ぐに気持ち悪くなった。


けれど、こんな綺麗な車内を汚しちゃいけないと思って、吐きそうになるのを必死に我慢してチャイルドシートにしがみついていた。


「ミユキちゃん。着いたよ」


 と助手席の紫子さんが後部座席でヘトヘトのあたしに振り向いて言った。


あたしは吐かなくて済んだことで、つい、


「ありがとう」


 と、どこかのお嬢様みたいに返事をしてしまった。


それに紫子さんはクスっと笑い、


「どういたしまして」


 と返してくれたのだった。

 

それで張りつめていた気持ちが解けた気がした。


 ミニバンが停まったのは屋根の大きな一軒家の前で、降りたのは紫子さんとあたしだけだった。


「今夜はここに泊まります」


 と言って中に請じ入れてくれる。


玄関に入ると古い家屋の匂いにまじって爽やかな香りがしていたので、


「いい香り」


 と言うと、紫子さんが指さして、


「山椒よ。今朝収穫したのが、ほら、そこの物置にたくさん」


 そちらに目をやると玄関脇の小部屋に、鮮やかな黄緑色でいっぱいの網籠が並べてあった。


 その後、紫子さんに言われるままにお風呂に入り寝巻に着替え、山椒尽くしの夕飯を食べ、床に就いた。


初めて来た場所なのになぜか懐かしい気持ちがしたのを覚えている。


 次の朝は早かった。


リュック一つ背負った紫子さんと山に入る。


朝露が降りた山道を紫子さんに手を引かれて歩き続ける。


道が悪く、木の根や石段の道を歩くのはあのころのあたしの小さな足には堪えたはずだ。


けれど、新しく何かが始まるのが嬉しくて、そんなことお構いなしで歩き続けた。


 山の中をずいぶん歩いて、それまでの広葉樹とは打って変わって森閑とした杉木立の前に出た。


そこに三本足の鳥居があり杉林の奥に向かって参道が延びていた。


一礼して参道に足を踏み入れたが、そこは苔むしたごろた石だらけ、とても歩きにくかった。


「気をつけてね。足を挫かないように」


 紫子さんは軽快な足取りでごろた石の上を飛び跳ねるように歩く。


あたしには真似できなかったけど、紫子さんが踏んだ所を選んで付いて行った。


石畳の難所を越えると、すり鉢状の窪地の縁に出た。


すり鉢の底には神社があって、お日様が境内をぬるーく照らしていた。


「傀儡子神社よ」


「?」


「覚えてなくて当然」


 そう言われて思い出そうとしたがだめだった。


「あたし、ここに来たことあるの?」


「そうよ。あなたはここで生まれたの」

(毎日2エピソード更新)


この続きは明日21:00公開です


よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾


たけりゅぬ

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