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辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第二部 辻沢日記(コミヤミユウのセルフライフドキュメント)

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「辻沢日記 61」(絶対絶命の二人)

 雄蛇ヶ池の端で、金色の目をした沢山のひだる様がユウとあたしをねめつけている。


一斉に襲って来たらおそらく今のユウに押し返す力はないだろう。


背後の池に飛び込もうにも、ユウとあたしには向こう岸に辿り着く体力も残っていない。


「腕があがらないや」


 ユウが弱音を吐いた。


ユウはもう立つこともできないようだった。


東の空が明るい。もうすぐ夜明けだ。


ユウが世界で一番の弱者になる時間がやって来る。


泣きたくなったけれど、あと少し頑張ればユウの望みが叶う。


あたし一人で闘ってここを切り抜けなきゃ。


でも、どうやって?


『夕霧物語』の最後の死闘を思い出そうとしたが駄目だった。


伊左衛門はそれを語らなかったからだ。


ならば自分の力でなんとかするしかない。


「貸して」


 あたしはユウの手から黒木刀を取って振り上げた。


「ユウ、あと少し頑張って。お願い」


 あたしはユウの手を引いて立たせると、


「行く!」


 と砂浜を前進した。


 あたしとユウは水があった時の岸辺に近づいて行く。


少し高くなった砂浜の際に赤襦袢と青袢纏が待ち構えている。


あたしは黒木刀を下段から、最前の赤襦袢の脇腹目がけて逆袈裟に切り上げる。


ものすごい風切り音がした次の刹那、赤襦袢は真っ二つになってその場に昏倒した。


「何、この木刀? やばすぎる」


 次いで青袢纏がユウに襲い掛かった。


ユウは歩くのがやっとで俯いたままだ。


その細い首に青袢纏が牙を剥いてきたのだ。


「させるか、クソが」


 黒木刀がうなりを上げて青袢纏のそっ首を叩き落とす。


まき散らされた血汚泥が白砂を染めた。


次は2体同時。


赤襦袢と青袢纏セットだ。


真正面から襲って来る。


そいつらを黒木刀を横薙ぎに二つ胴を立ち割ってやった。


「なめんな!」


 それまで我先にとひしめき寄せていたひだる様が、あたしとユウから距離を取り出した。


ここでやっと砂地から岸に上がる。


「ユウ。大丈夫?」


 返事がなかった。


黒木刀が大活躍してくれたおかげで、なんとかここまで耐えられたけれど、これがいつまでも続くとは思えなかった。


いずれあたしの体力も尽きる。


その時はユウとあたしはまめぞうたちのように切り株となるのだ。

 

 ユウを見るともう意識がないのか、あたしの右腕に掴まったまま体をもたせ掛けて来ていた。


ユウの手を強く握る。


「あたしが絶対守るから」


 そう言うと返事をするかのようにユウの左手から何か温かいものがあたしの右の腕に伝わってきた。


そしてその温かいものはあたしの胸をあったかくして、そして左腕に伝わって行く。


上腕が熱くなり、前腕に力が漲って、最後に手の甲がビシと音を立てて黒木刀を握りしめた。


これまでひだる様を切り倒せていたのは黒木刀のせいだと思っていた。


でもそうじゃなかったのだ。


ユウがあたしに力をくれていたからだった。


あたしは目の前に壁となって立ち塞がるひだる様を睨みつける。


「一緒に生きる!」


 そう叫ぶとあたしはひだる様の列に向かって奔り出した。


畳みかけてくるひだる様の攻撃。


あたしは黒木刀を振り回し、活路を開くために前進を諦めない。


いくつか鎌爪で傷を負ったがそんなものは平気だ。


今のあたしは強い。だってユウが力をくれているから。


違和感があった。


右手を見た。


ユウの手が繋がれていなかった。


振り返る。


もといた岸辺にひだる様の小山が出来ていた。


あたしはユウを置いてきぼりにしたのか?


いやそうじゃない。


ユウが最後の力をくれたからこんなに力が漲っていたんだ。


自分にひだる様をひきつけて、あたしだけ逃がそうとしたのだ。


そんなのダメでしょ。


「ユウ!」


 あたしは取って返して、ひだる様の山を崩しにかかる。


少しの隙間から中が見える。


その中心に横たわるユウは抵抗することもなく無垢そのものに見えた。


ひだる様はそんなユウに手を拱いているのか、少し距離を置いて囲繞していた。


けれど必死にその背後を切り開くあたしに気付くと、すべての銀の牙、すべての鎌爪を一斉にあたしに振り向けて来た。


十数のひだる様があたし目掛けて飛び掛かって来る。


あたしは黒木刀を振り回してそれを防御する。


一手一手を返してひだる様を退け続ける。


しかし、ついにあたしは足がもつれ尻もちをついてしまった。


巨大な鎌爪が目の前に迫る。

 

――終わった。


もう黒木刀を振り上げる暇もなかった。


「もう少しだったのに。ごめんね、ユウ」


 あたしは身を固くして目をつぶったのだった。


(毎日2エピソード更新)


この続きは明日21:00公開です


よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾


たけりゅぬ

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