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辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第二部 辻沢日記(コミヤミユウのセルフライフドキュメント)

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「辻沢日記 58」(流砂穴)

 ヒイラギ林を目指すユウとあたしは、こちらから攻撃をしかけるのを避けるようにした。


それは蛭人間の中に赤襦袢や青袢纏が混じるようになったからだった。


さっきの戦いでユウは赤襦袢に手こずった。


そんなのが複数襲ってきたら、いくらユウでも体が持たないだろう。


だから赤襦袢か青袢纏を見たら道を外れて迂回する。


そうやって青墓の中を移動した。


「あれはひだる様だった」


 膨れた腹、黒く爛れた肌、鎌のような爪。


夕霧太夫一行を襲ったひだる様とまったく同じだった。


蛭人間や屍人の変種などではなかった。


「ユウ、今まであんなのと戦ったことあった?」


「いいや」


 ユウもこの異常さを感じ取っているようだ。


「手かな」


 あたしはユウと繋がれた手を見た。


相変わらずお互いの手の甲に指が食い込んで離れないままだ。


「このせいで変になってるんじゃ」


 ユウは前を向いたまま黙ったままだった。


 広場から少しずつ斜面を降りて来てようやく周囲が平坦になった。


小高い丘を降りきったらしかった。


さらに赤襦袢と青袢纏を警戒しながら歩く。


 北堺に近づいたあたりから植生が変わり出した。


それまでクヌギやコナラの広葉樹ばかりだったのが、葉が堅く棘があるヒイラギが多くなってきた。


青墓全体でも北堺だけにヒイラギ多い。


「これって魔除けかな」


 ヒイラギは鰯の頭と一緒に玄関に飾ると魔除けになると何かの本で読んだことがあった。


「ヴァンパイア除けかもね」


 なるほど。


山椒もヒイラギも棘がある。


辻沢のヴァンパイアはよほど棘嫌いだと思われているらしい。


 そんな話をしながら進んでいると、いきなりユウ側のブッシュから青袢纏が飛び出してきた。


その青袢纏は鎌爪でユウの肩あたりを切り裂いて地面に着地すると、今度はあたしに向かって鎌爪を向けてきた。


あたしは反射的に水平リーベ棒で避けようとしたけれど握りが甘かったせいで弾き飛ばされてしまった。


勢いで尻餅をついたところに青袢纏がのしかかって銀色の牙をむき出した。


もう素手で防御するしかない状況の中、目の前に大きく開いた真っ赤な口が迫ったとき、喉の奥から黒木刀の切っ先が突き出てきた。


青袢纏は口を手で押さえて悶絶しだした。


背後のユウが、黒木刀で青袢纏を串刺しにしたのだった。


ユウが黒木刀を引き抜くと青袢纏はその場に倒れ動かなくなった。


青袢纏が青い火に包まれるのをぼうっと見ていると、ユウがあたしの手を引いて立たせ、


「急ごう。ひだる様の濃度が上がってきた」


 ユウの目線の先に、樹海の中を向かって来る青袢纏、赤襦袢の群れが見えた。


 ユウに手を引かれて樹海の獣道を走る。


迫るひだる様のせいで青墓の樹木が揺れている。


 走りながらユウの肩に血の染みが広がっていくのが見える。


ユウも走るので精一杯なのかもしれない。


もし、ひだる様に追いつかれたら、あたし一人でユウを守って闘う自信はなかった。


 周囲の木がほとんどヒイラギに変わって、ようやく北堺に出た。


ここからは流砂に気をつけて慎重に歩く。


 ヒイラギの根元のあちらこちらに流砂が口を開けているのが見える。


落ちないように用心し、触れると痛いヒイラギの葉を避けながら、さらに深部に分け入って行く。


 完全に流砂帯になって、ユウがヒイラギの根の上に立ち止まって言った。


「なんだこの穴」


 そこは底が見えないほどの深い縦穴だった。


壁からヒイラギの根っこが縦横に張り出していた。


「これって流砂穴の跡?」


 流砂の砂だけがなくなって巨大な穴が出現したようだった。


ユウは縦穴を覗き込んで、


「そうみたい。でも、こんなの初めて見た」


 湿った風が吹いてきた。


生臭い匂いがあたりに漂い出す。


背後にいやな気配を感じた。


振り返るとたくさんの赤襦袢と青袢纏が迫っていた。


もはや屍人も蛭人間も混じっていない純粋なひだる様の群れだ。


まるで夕霧物語でひだる様が押し寄せたときのようだった。


赤襦袢と青袢纏はヒイラギの葉の棘を無視して流砂の縁を這いずりながら、じりじりとユウとあたしを囲繞しだした。


それらは手前の流砂まで近づいて来ている。


逃げ場がない。


それにあたしは水平リーベ棒を無くしてしまっていた。


頼りはユウの黒木刀のみ。


「ユウ。どうする?」


 するとユウがあたしの手を強く握って、


「降りよう」


 と言った。それでも、


「底も知れないところに行くのは」


 とあたしが躊躇していると、


「大丈夫。ほらあそこの壁を見てごらん。横穴が見えるから」


 あたしは目をこらして光の届かない縦穴の中を覗き込んだ。


根っこと土の層の下に、見慣れた壁、見慣れたレンガの横穴が見えた。


それは普段は砂に埋まっている地下道が露出したようだった。


(毎日2エピソード更新)

続きはこのあと21:10に公開します


よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾


たけりゅぬ

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