「辻沢日記 55」(曳き船の神事)
あたしはユウの期待の目に気圧されながら先を続けた。
「きっとそう。あの参道は社殿の船を曳くために作られたもの」
社殿の船はかなり大きい。
それを沢山の人ですり鉢の底から曳き出す様子を想像する。
石についた傷は一度だけのものではなかった。何度も何度も繰り返されていた。
「傀儡子神社で造られた船型の社殿をすり鉢から曳き出して青墓へ持ってゆく。
曳き船の神事って言えばいいのかな。夕霧物語はそれを伝えているのかも」
神事という言葉に、またユウが気を悪くしないか心配になった。
でも、ユウは気にする風でもなく、
「じゃあ、あそこからこの青墓まで船を曳けば、けちんぼ池に出会えるってことだ」
それを言うのは気が早い気がした。
青墓にけちんぼ池の痕跡が必要だから。
「そこまでは言えないかも」
「そうか」
反発されるかと思ったが、意外に納得したようだった。
ユウを見た。真紅の瞳であたしを凝視していた。
「でもね、分からない事があるの」
そう言うとユウが間髪入れずに手を打って、
「方角だろ。
参道へ船を曳いて行ってしまったら青墓には抜けられない。
あそこから青墓に行く道はないし、山中を抜けるにも尾根を2つは超えなければならない。
くっそ」
と言った。
傀儡子神社の裏手の林道は船を曳いて通れないだろうし、尾根を超えてやっと青墓へ行く峠道だ。
「何か方法があるのかも」
夜野まひるが言った「コリジョン抜け」のような、未知のファクターが必要なんだろう。
―未知のファクター。
それこそが、ユウが潮時に渇望する意味だとしたら。
そしてクロエもそれに関わる形で潮時を過ごしているのだとしたら。
傀儡子の存在は? 潮時の意味は?
やっぱり夕霧物語に収斂されてしまうのだろうか。
「それで終わり?」
ユウの声がぶっきらぼうに聞こえた。
「そうだけど……」
中途半端な報告でユウをがっかりさせてしまった?
恐る恐るユウの顔を見る。
するとユウがいきなり体ごと浴びせかかってきた。
「何、何、何」
勢いでユウとあたしは地面に横倒しになる。
そんなこと構わず、ユウはあたしの顔をまじまじと見ると、
「すごいなミユウは。こんなことが分かるなんて!」
右手をあたしの頭に回してなぜなぜしだした。
「変態も役に立つときあるでしょう?」
「ミユウ大好きだよ」
ユウはあたしを強く抱きしめてくれた。
ユウはいつだって真っ直ぐだ。
その気持ちが本物であるのはユウの表情から痛いほど伝わってくる。
あたしもユウが大好きだ。
ずっと前から。これからもずっと。
あたしはユウをギュッと抱き返した。
その時ユウは……。
荒い息をしていた。
意識の閾にいて発現するのを必死に耐えていたのだった。
(毎日2エピソード更新)
この続きは明日21:00公開です
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たけりゅぬ




