「辻沢日記 49」(離れない手と手)
ドアを開けて車から出ようとするとすごい力で腕を引っ張られた。
振り返ると荒い息をしながらユウの真紅の瞳があたしを見つめていた。
さてはいよいよかと思って身構えたが、様子がちょっと違う気がしてよく見ると、いたずら小僧のように口元が歪んでいた。
「ちょっと何?」
「こっちから出ろよ」
ユウは時々こういう子供っぽいことをする。
昔から変わらないユウの習性のようなものだ。
それでかえって意識レベルがまだ人間寄りと知れて少し安心した。
なので、ユウのいたずらにのって運転席側のドアから出てやることにする。
運転席と助手席との間のでっぱりを超えるのはしんどかった。
この車は天井が低い上にやたらとシートが深かったから。
さんざん苦労してトンネルを潜るように車外に出ると、
「のろいな」
とユウ。
「手を離してくれないからでしょ」
と、なじってやると、
「無理っぽい」
しれっとして言う。
握りあった手を見ると、お互いの指がそれぞれの手の甲に食い込んでいた。
あたしも外そうとしたけれどすでに指がくっついてしまっていた。
「知ってた?」
「何がよ」
「こうなること」
ユウは首を振って、
「知るわけ。それより爪立てんな」
「は? そっちこそ」
ユウはあたしが車から出た後、バックシートに右腕を突っ込んで中から真っ黒い木刀と銀色の水平リーベ棒を引っ張り出した。
あたしに水平リーベ棒を渡しながら、
「そっち側のは任すから」
って言われても……。
きゅぴぴ。夜野まひるの赤い車とは違うロック音がした。
「何? この車」
車のことはよく知らないけど、この流線型の外観はかっこいいと思う。
「これ? エクサスLFA。町長の車」
え? いくらスポーツカーが好きだからって、
「盗んだの?」
「人聞き悪いな。秘書が貸してくれたの」
「どういうこと?」
「同級生。辻女の」
町長室で見た秘書の抜けるような肌と真っ赤な唇を思い出した。
ユウは駐車場を出て地下道に向かうかと思ったら、真逆のヤオマンホテルの方に歩き出した。
「どこ行くの?」
「青墓かな」
青墓に行くなら、バイパスに出て御蛇ガ池の脇の道を抜けるのが近いのだが、何か事情でもあるのか。
クヌギ林の脇を通り竹藪を抜けしばらく二人で歩いた。
その間、人にも屍人にも蛭人間にも出会わなかった。
急に視界が広がり、行く手に小山のような一帯が黒々と蟠っていた。
青墓の杜に近づいたらしかった。
今晩は新月だ。
月はなく星がいつもより強く瞬いていた。
このまま屍人にも蛭人間にも会わなければいいと思っていたら、ユウがボソッと言った。
「来た」
ユウが見据えた道の先に、ゆらゆらと近づいて来るものがあった。
屍人のようだった。
一体かと思っていたら道脇の田んぼから屍人が二体出て来た。
いきなり三体を相手にしなければならなくなったようだった。
あたしが水平リーベ棒を握って身構えると、
「失敗した」
とユウが今更なことを言うので、
「地下道のほうがよかった?」
この開けた場所では囲まれてしまうが、地下道なら一体ずつ相手にできたろう。
「ちがう。また利き手だった」
ユウの利き手は左。あたしは右だ。
今繋ぎ合っているのは子供の時とまったく同じ、利き手同士だった。
あのころ二人で利き手が使えたらって散々言い合ったのに。
「行くよ」
ユウが走り出したのにつれて走る。
できれば接触したくないあたしは、こちらから行く必要ある?と思う。
でも闘いはユウの専門。
これが最適解だと思い込むことにした。
(毎日2エピソード更新)
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