「辻沢日記 45」(ユウ、ミユウにキレる)
あたしは自分の解釈がうまくいったことに少し鼻高になってユウの反応を待った。
ところがユウがあたしを見て言ったのは、
「学者が考えそうなことだな」
「え?」
「学者はすぐ、肝心なことをなかったことにしようとする」
「どういうこと?」
「夕霧が焼け跡の下で生きていたのも、けちんぼ池で再生するのも比喩だっていうんだろ?」
「比喩っていうか、そもそも夕霧物語って傀儡子神社の起源を語る、よくある寺社縁起だから」
「寺社縁起ね。それでいいんだミユウは。ボクとミユウの関係もエニシっていうことで」
いっつもそれは違うって思ってたのに。エニシなんかでユウとあたしのことを決めつけたくないって思ってたのに。
「だってユウが夕霧物語って何って聞くから」
「葬式物語なんだろ?」
「違うの!」
ユウが立ち上がって入口のほうに歩き始めた。
ユウは戸をあけるとそこで立ち止まって振り向いて言った。
「変態もほどほどにしないとな」
「違うったら!」
あたしが立ち上がろうすると、ユウは背を向けて戸口の向こうに姿を消した。
社殿の外は既に夕暮れが近づきヒグラシの音が聞こえていた。
あのバス停で聞いた不気味な動物の鳴き声もしていた。
右の薬指に疼痛があった。
見ると薬指に赤い糸が結ばれてあって、それが床の上に垂れて戸口のほうまで伸びていたのだけれど、ユウが立ち止まった辺りから先はぼやけて見えなくなっていた。
音のない時間が過ぎていった。
半ば放心したままでそこに座っていた。
気付くと外は真っ暗だった。
時計を見ると8時を回っていた。
こんな時間に一人で山道を戻る勇気がでず、今晩はここに泊まろうと思ったとき、夜野まひるが現れた。
「お一人ですか?」
「ユウは出掛けてしまって」
「お帰りは?」
「分からないです」
そう言うと夜野まひるは少し間を置いてから、
「ならば一緒に帰りましょう」
と言ってくれた。
あたしは紫子さんの家に戻って、気持ちのぐちゃぐちゃを整理したかったからお言葉に甘えることにした。
帰り支度を始めようとしたら、
「その前に、これを召し上がりませんか?」
と夜野まひるがピクニックバッグを掲げて微笑んだ。
そう言われて、あたしは泣きたいくらいお腹が空いていたことに気が付いたのだった。
次の日、一人で残りの実測を再開した。
社殿以外の箇所だ。参道全体、表の参道、斜面の階段、社殿前の石畳を行う。
ここで実測のルールを決める。
全ての石の一つ一つの位置と大きさを記録するのだ。
まず、参道全体の幅と長さを実測して図面化する。
これはひたすらコンベを当てればできるので時間さえ掛ければ出来る。
参道の図面ができたら、次に実測した石を配置する。
これが結構難しい。
CADのようなデジタル情報だと、位置と方向、大きささえあっていれば、そのままでいい案配に配置できるのだが、こっちは手書きである。
参道図面のスケールに細かな石を配置した途端、図面のバランスを崩しかねない。
見る人が見たら、きもい図面ができあがる可能性がある。
それだけは避けたかった。
「簡単だよ。全体と細部とに図面を分けたらいいんだよ」
ユウに言われた気がした。
辺りを見回したけど誰もいなかった。
でもその空耳のおかげで、これは全体と細部の問題なのだと気付くことができた。
「分かった。そうする」
ユウはあたしの枠組みを簡単に乗り越えて行く。
今日、ユウは傀儡子神社に現れていない。
明日も明後日も来ないだろう。へそを曲げたユウは、いつだって行ったきりだった。
でも、夕霧太夫が言ってたように、
「またすぐ会える」
それは確実に感じられた。
きっと、すぐユウに会える。
ユウが発現する潮時が近いづいていた。
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