表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辻沢のアルゴノーツ ~傀儡子のエニシは地獄逝き~  作者: たけりゅぬ
第一部 ノタクロエのフィールドノート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/236

「辻沢ノーツ 1」(鞠野フスキー)

歴史民俗学専攻のクロエは、山あいの集落〈辻沢〉で夏の間フィールドワーク実習をすることになった。

調査対象は「傀儡子くぐつ」と呼ばれる遊女の末裔。


けれど辻沢には屍人や蛭人間が徘徊し、月の満ち欠けとともに「潮時」を迎える少女たちがいた。


これは、フィールドノートとインタビューが入り混じる、

女子大生クロエの「辻沢ノーツ」です。

 旧校舎の一番奥の階段教室は、5月半ばというのに暗くて寒い。


 それは、かすれたマイク音のせいばかりじゃなく、壇上の鞠野先生の話が長いのも一因だと思う。


 あたしは意識高い系女子のフジミユと一番前の席に並んで座っているけど、先生が講義前に言った、

 

「事前調査に行かなければ夏のフィールドワーク実習はなしになります。当然単位もなし進級もなしです」


 という言葉が気になって講義の内容が頭に入って来ない。あたしはゼミのフィールドワーク実習の調査地がまだ決まってない。



 ―――鞠野先生の講義。


「ギリシャ神話の巨大船アルゴ号を交易者の意味としてタイトルにしたのが、近代エスノグラフィーの名著『西太平洋のアルゴノーツ』です。


 これは「アルゴノーツ」に「フィールドノーツ」を掛けたダジャレなんですね」


 先生の話長い。うしろの人たち付いてきてるかな?


「…えっとなんでしたっけ」


 って、あたしの顔を見られても。


「アルゴノーツです」

 

 隣のフジミユがアシストする。


「『アルゴノーツ』の著者B・マリノフスキーには『日記』が残されています。


日記を読むとマリノフスキーは現地の人や協力者を蔑む、気分屋だったことが分ります。


みなさんは夏の実習でそうならないように」



 チャイムが鳴ると先生がフジミユに目配せをして教室を出て行った。


 いつもならフジミユはすぐに先生の後を追いかけるのに、隣のあたしに向き直って、


「決まった? 行くところ」


 と、真正面から痛いところを突いて来る。


「まだ」


 事前調査どころか調査地すら決まってない。


鞠野先生のゼミのほとんどの子はもうとっくに決めて準備してる。


「クロエ。今月末だよ、実習の事前調査。大丈夫?」


 ノーメイクの真っ黒い大きな瞳でまじまじと見られると、どういうわけか、とんでもなく悪いことをしている気になって来る。


「ごめん」


 フジミユ。本名フジノミユキは、生まれながらのフィールドワーカーで鞠野先生のお気に入り。


あたしはフジミユって呼んでるけど、ゼミの人からはフジノ女史って呼ばれて畏れられてる。


この子、なんと中学生のころからフィールド調査を始めてて、大学に入ってからは鞠野先生が受持つ大学院のフィールドワーク演習で随時調査報告させてもらってる。


フジミユが報告する時はフィールドに入ってる院生までわざわざ戻ってきて聴講するらしい。


学部生の報告なのにだよ。


「準備は時間かかるよ。文献集めたり、許可申請したり、ご挨拶とかも行かなきゃだし」


 そういうことはマニュアル本を読んで知ってるけど、現実どんなかはピンと来てない。


「クロエがこの間のゼミで発表してたところは? 辻沢だっけ。あそこ、おもしろそうじゃん」


「あれは鞠野先生のごり押しって言うか」


 文献のコピー渡されて、これで発表してみなさいって。


「そっかー。それじゃ楽しくないね。てっきりクロエが自分で探して来たのかって……」


「全然知らなかったもの、あんな町もお祭も」


「辻沢の三社祭だったよね」


 N市からほど近い辻沢町というところのお祭。


4年ごとだったのが、一昨年から毎年開催になったと思ったらヴァンパイアコスプレ祭になって、町中にヴァンパイアの格好した人が溢れるようになった。


それで鞠野先生から「祭の現代化」ってテーマもらって、最初はこの国でヴァンパイア? って思ってたけど調べたら面白くなったのは事実。


「今年から『辻沢ヴァンパイア祭』ってなったみたい」


「辻沢夜祭としてけっこー知られてたやつ」


 日本3大ほどじゃないけど、いい感じの祭だ。


「フジミユって、今のフィールドへはこれまでに何回くらい行ってるの?」


 フジミユのフィールドはT山郷ってところ。どこにあるかは知らない。


「9回だよ」


「それなら、もうずいぶん調査進んだんじゃない?」


「冗談。まだ全然だよ。受験で半年中断してたのが痛かった。卒論に間に合うか不安」


 卒論って。あたしたち3年生になったばかしなのに。


「事前調査であたりを付けて、夏季休暇の本番につなげなきゃ」


「ふーん」


「だよ。クロエ」


 ブルッとなったのは教室の寒さのせいじゃない。


留年はやっぱりいやだ。


今月末は辻沢にいる気で準備しよう。


(毎日2エピソード更新)

続き読みたいと思ったら、★・ブクマ・一言感想・いいねで応援お願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ