第99話 再会への希望
ある日、写し世に変化が起きた。
銀色の狐神――シロミカゲとクロミカゲが融合した存在が現れたのだ。千年の孤独を経て、一つになった神聖な存在。
『巫女よ、聞け』
狐神の声は、写し世全体に響き渡った。銀色の毛並みは月光のように輝き、九つの尾は優雅に揺れている。
『時代は変わりつつある』
チヨたち歴代の巫女は、狐神の周りに集まった。皆、希望と不安の入り混じった表情をしている。
『いずれ、新たな道が開かれるだろう』
「新たな道...?」
千代が問いかけた。百年以上写し世にいる彼女でさえ、初めて聞く話だった。
『写し世と現世の境界に、変化が起きる時が来る。それがいつかは分からぬ。百年先か、千年先か。だが、確実にその時は来る』
希望の光が、チヨの中で小さく灯った。もしかしたら、また会える日が来るかもしれない。
『そして』
狐神は続けた。その視線が、チヨに向けられる。
『お前の妹は、その鍵となるかもしれぬ』
「ルカが...」
『橋爪の血は特別だ。影写りの巫女の系譜。そして、あの娘の瞳には、すでに兆候が現れている』
チヨは現世のルカを見た。確かに、妹の金色の瞳は日に日に輝きを増している。
『いずれ、彼女も目覚めるだろう。夢写師として』
「夢写師...」
その言葉に、美咲が反応した。
「それは、写し世と現世を行き来できる者のこと?」
『その通り。だが、完全な覚醒には時間がかかる。そして、危険も伴う』
狐神の言葉に、チヨは不安を覚えた。ルカにも、自分と同じような運命が待っているのだろうか。
■夢写師への道
チヨは現世を見つめた。
時は流れ、ルカは成長していく。16歳、17歳、18歳...
そして、ある日――
20歳になったルカが、写真館で魂写機を見つめている姿が映った。大人の女性へと成長した妹は、より一層美しくなっていた。でも、その瞳には深い憂いが宿っている。
「これは...」
無意識のうちに、ルカは魂写機に惹かれていた。まるで、血が呼び覚ますかのように。手に取ると、不思議なほどしっくりくる。
そして、ルカの瞳が強く金色に輝いた。
『始まりだ』
狐神が静かに言った。
『彼女は夢写師となり、写し世と現世の境界で、失われたものを探すだろう』
チヨの胸が高鳴った。ルカが、自分の痕跡を探し始める。それは遠い未来の話かもしれないが、確実にその日は来る。
「でも、思い出せるの?」
チヨの問いに、狐神は首を振った。
『完全には無理だろう。だが、欠片は見つかるかもしれぬ』
それで十分だった。たとえ名前を思い出せなくても、顔を思い出せなくても、ルカが自分の存在を感じてくれるなら。
■永遠の愛
チヨは、改めてルカを見つめた。
もう22歳になった妹は、少しずつ大人の女性へと成長している。それでも、毎朝二人分の朝食を作る習慣は変わらない。
今朝も、ルカは台所に立っている。一人暮らしのアパートで、それでも二人分の朝食を用意している。
「ルカ...」
声は届かない。でも、想いだけは送り続ける。
風となって髪を撫で、光となって道を照らし、温もりとなって寒い夜を守る。
形のない愛。でも、確実にそこにある愛。
健司のことも、変わらず見守っている。彼もまた、無意識のうちにルカを気にかけ、さりげなく支えてくれている。
30歳を過ぎても独身の健司。周りは心配するが、本人は気にしていない様子。まるで、心の奥で誰かを待ち続けているかのように。
「ありがとう、健司さん」
伝わらない感謝。でも、言わずにはいられない。




