第8話 ハチワレ猫のチクワ
市場への道の途中で、白い影が横切った。
「あ、チクワだ」
チヨが声を上げると、黒白のハチワレ猫が塀の上から優雅に降りてきた。金色の瞳で二人をじっと見つめている。その瞳が、朝日を受けて一瞬青白く光ったように見えた。
チクワが日向で寝ている。 ふと見ると、その影が二つに分かれているような... いや、気のせいか。
「チクワ〜」
ルカが手を伸ばすと、猫は親しげに頭をこすりつけてきた。柔らかい毛並みが、朝日に照らされて銀色に輝く。
「チクワって、いつからいるの?」
ルカの問いに、チヨは首を傾げた。
「そういえば……お母さんが子供の頃からいたって聞いたことがある」
「えっ?じゃあ、すごく長生きなんだ」
確かに不思議だった。母・美咲の子供時代からいるとすれば、少なくとも30年以上は生きていることになる。普通の猫の寿命をはるかに超えている。
チクワは、まるでその会話を理解しているかのように、意味深な鳴き声を上げた。そして、市場への道を先導するように歩き始めた。
チクワが何もない空間に向かって鳴く。 まるで、そこに誰かがいるかのように。 いや、二人いるかのように。
「チクワって、本当に普通の猫なのかな」
ルカの呟きに、チヨは答えられなかった。この村には、説明のつかないことが多すぎる。