第45話 夕暮れの対話
夕方、健司と二人きりになった時、チヨは尋ねた。
『健司さんの風、とても優しい。でも時々、苦しそうな風も混じってる』
健司は少し驚いたような顔をした。
『そんなことまで分かるの?』
『風は嘘をつかないから』
健司は苦笑して、手話で答えた。
『君を失うのが怖い。でも、止めることもできない。その葛藤が、風に出てるんだね』
『ごめんなさい』
『謝らないで』
健司の風が、少し強くなった。決意の風。
『君の選んだ道を、最後まで見守る。それが僕の選んだ道だから』
二人の間に、優しい風が流れた。言葉を超えた、心の交流。
■新しい記録方法
その夜、チヨは新しい記録方法を思いついた。
写真に、風を写し込むのだ。
魂写機で撮影する時、風の流れを意識する。すると、現像された写真には、人々の感情の風が光の筋となって写っていた。
喜びは上向きの曲線、悲しみは下向きの流れ、愛情は優しい渦。
これなら、見えないものも記録できる。人々の心の動きを、永遠に残すことができる。
『すごい!』
ルカが感嘆の声を上げた——もちろん聞こえないが、その風から分かる。
『心が写ってる!』
そう、これが新しい写真。見えるものだけでなく、見えない心も写す写真。




