表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/100

第42話 嗅覚の喪失と新たな能力

クロミカゲが去った後、チヨは改めて風の欠片に手を伸ばした。


指先が結晶に触れた瞬間——


世界から、香りが消えた。


完全に、すべての匂いが失われた。


もう、花の香りも、料理の匂いも、雨上がりの土の匂いも感じられない。健司の使っている石鹸の香りも、ルカの好きなジャスミンのシャンプーの匂いも。


世界から、また一つ感覚が消えた。


鼻で息をしても、ただ空気が出入りするだけ。そこに香りという情報は含まれていない。


でも同時に、新しい感覚が芽生えた。


■風が見える


風の流れが、目に見えるようになったのだ。


いや、「見える」というのは正確ではない。色も形もない。でも、確かに風の存在が分かる。


空気の動き、人の息遣い、そして——感情の風。


人の心から発せられる想いが、風となって周囲に広がっているのが見える。


健司からは、温かく優しい風が。心配と愛情に満ちた、春の微風のような。


『大丈夫?』


健司の手話に頷く。


『嗅覚を失いました。でも、風が見えます』


『風が?』


『心の風も』


チヨは健司の頬に手を伸ばした。触れることはできないが、そこから流れる暖かい風を感じる。


温かくて、優しくて、少し切ない風。それは恋する人の風。


『健司さんの想い、温かい風となって伝わってきます』


健司の頬が赤くなった。心の風が、少し乱れる。照れている。


でも、その風は嘘をつかない。真っ直ぐで、純粋な愛の風。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ