第40話 風の欠片への道標
『これは……』
チヨが魂写機を向けると、ファインダーの中に緑色の光が見えた——色は分からないが、特別な光だということは分かる。風鈴が、風の欠片への道標となっている。
風鈴の示す方向は、社殿の裏手だった。そこには古い風穴があり、普段は柵で囲まれている。
『危険だから、近づいちゃいけないって言われてた場所』
ルカが説明する。
しかし今日は、柵の鍵が開いていた。まるで、誰かが導いているかのように。
さゆりは、不思議そうに首を傾げながらも、三人を見送った。
「気をつけて。あの子の分まで、ルカちゃんを頼みますよ」
誰に向けての言葉か。でも、チヨには分かる。母の親友は、見えない自分の存在を、どこかで感じ取っているのだ。
■風穴での体験
風穴の入り口に立つと、中から強い風が吹き出してきた。髪や服が激しくなびく。
その風は、無数の香りを運んでいた。
土の匂い、水の匂い、そして時間の匂い。古い、とても古い空気の匂い。
『私が行きます』
チヨが前に出ようとしたとき、健司が腕を掴んだ。
『一人では危険だ』
『でも……』
『一緒に行く。議論の余地はない』
彼の表情は、医師の顔ではなく、愛する人を守ろうとする男の顔だった。
結局、ルカとさゆりを入り口に残し、チヨと健司が風穴に入ることになった。
中は予想以上に広かった。そして、奥に進むにつれて、不思議な現象が起きた。
風が、記憶を運んでいるのだ。




