第4話 霧姫伝説の絵本
朝食の支度をする前に、ルカは本棚から古い絵本を取り出した。
「ねえ、チヨ姉ちゃん。これ、また読んでもいい?」
それは『霧姫伝説』という題名の、手作りの絵本だった。代々橋爪家に伝わるもので、和紙に描かれた挿絵は色褪せているが、まだ十分に美しい。
「いいよ。でも、朝ごはんの後にね」
「うん!」
ルカは絵本を大切そうに抱えながら、ページをめくった。そこには、白い着物を纏った美しい女性——霧姫の姿が描かれている。長い黒髪、優しげな表情、そして手には不思議な光を放つ宝珠。
「霧姫様って、本当にいたのかな?」
ルカが絵本を見つめながら呟く。その挿絵の中には、霧姫に仕える巫女たちの姿もあった。皆、白い装束を身に纏い、手には鈴や鏡を持っている。
「きっと、今も見守ってくれているよ」
チヨは優しく答えた。窓の外の霧を見つめながら、心の中で付け加える。——そして、私たちに使命を託している、と。
「あ、見て!」
ルカが指差したページには、「影写りの巫女」と呼ばれる特別な巫女の挿絵があった。他の巫女とは違い、その姿は半透明に描かれ、手には不思議な形をしたカメラのような道具を持っている。
「影写りの巫女って、どんな人だったんだろう」
「きっと、大切なものを守るために、自分を犠牲にした人よ」
チヨの言葉に、何か予感めいたものが含まれていることに、ルカは気づかなかった。
「我、愛さる。ゆえに我あり」 それが、影写りの巫女が遺した言葉だという。